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Dom Pérignon ヴィンテージ 2002 詳細レポート

Dom Pérignon ヴィンテージ 2002 詳細レポート

1. 香味プロファイル(香り・味わい・余韻・質感)

香り: 最初はフレッシュなアーモンドや穀物の香りが感じられ、その後すぐに砂糖漬けレモンやドライフルーツの甘やかな香りへと移ろいます 。さらに時間とともにスモーキーなトーストのニュアンスも現れ、複雑でエキゾチックなブーケを構成します 。味わい: 口に含むと瞬時に広がる心地よさがあり、テクスチャーは濃密でクリーミーです 。果実味が前面に出た豊かな風味で、エネルギッシュさと穏やかな温かみを併せ持ち、時間の経過とともにより深みと真剣さが増していきます 。全体として非常に調和が取れており、わずかなスタイリッシュな苦味が味わいを引き締めています 。余韻・質感: フィニッシュは長く滑らかで、シルキーな余韻が持続します 。熟成による「ふわり」としたクリームのような質感と上品なナッツ風味が感じられ、バランスの良さが際立ちます 。さらにアプリコットやハチミツ、焙煎したコーヒーのような香ばしさ、ミネラル感なども指摘されており 、2002年のドンペリニヨンは豊潤さとエレガンスを兼ね備えた魅惑的な味わいを備えています 。


【ファースト】 : 角を立てない、高いガス圧を感じさせない、発泡感 蜂蜜+濃厚なレモン(++) 奥の層にやや据えたグレープフルーツの皮 リンゴの芯に近い部分(やや木材寄りの香り) 時間の経過で明瞭にクリーミーで、でんぷん質豊富な層があらわれる アーモンド ナッツも  

【ミドル】: 膨らむボディ 輪郭しっかり 黄色い果実から、時間の経過でアセロラのような赤みを帯びた実を連想させる果実へ 舌上に辛味と言うよりも、渋みを感じさせる まったくベタつきがなく、スムーズにフィニッシュへ繋がる 

【フィニッシュ】: しみ込むというよりも、明らかに力がある、パワフルな返り 濃厚な蜂蜜レモン 甘さは上質で、レモンの果汁と共にある 渋みで口腔内を締め、重さもある 圧倒的な存在感 若さはあるが、熟成を感じさせる味の膨らみ エグ味が全くない 余韻も複雑かつ長い ジャスミンティ 洋梨 カモミール


2. 香味の要因となる原料(ブドウ品種構成・収穫条件・区画)

  • ブドウ品種構成: ドン ペリニヨンは黒ブドウのピノ・ノワールと白ブドウのシャルドネのみを使用し、その比率はヴィンテージごとに若干異なりますがおおよそ半分ずつ(約50%ずつ)です 。2002年も例外ではなく、ピノ・ノワールとシャルドネの絶妙な調和により繊細でバランスの良い風味が生まれています (※このキュヴェにはピノ・ムニエは一切使用されていません )。ブドウはシャンパーニュ地方の特級畑(グラン・クリュ)および一級畑のみから厳選され、特にアイ、ブージー、ヴェルズネイ、マイィ(以上ピノ系)、アヴィズ、クラマン、シュイイ、ル・メニル(以上シャルドネ系)といった主要8つの特級畑に、歴史的な修道院のある一級畑オーヴィレールを加えた区画がブレンドの核となっています 。
  • 収穫年(2002年)の条件: 2002年はシャンパーニュにおいて天候に恵まれた卓越した当たり年でした 。春は暖かく乾燥し霜害もなく開花は順調、夏は適度な日照と降雨が交互に訪れ、収穫直前の理想的な晴天が8月末〜9月初旬の大雨を帳消しにしました 。ブドウは病害も少なく健全に熟し、風による果粒の水分蒸散で糖度が高まり新たな熟度の高みへ到達しました 。収穫は地区ごとに2002年9月12日から28日に行われ 、ヘクタールあたり11,930kgにもおよぶ豊富な収量の健全なブドウが得られました 。卓越した成熟度を持つシャルドネとピノ・ノワールが、この年の豊かな香味の基盤となっています 。

Dom Pérignon 2002年のブドウ品種構成(シャルドネとピノ・ノワールを各約50%使用)

3. 熟成方法(澱との接触期間・瓶熟期間・マロラクティック発酵の有無 等)

ドン ペリニヨンは伝統的瓶内二次発酵方式(シャンパーニュ方式)で造られており、各ヴィンテージは収穫年の特徴を最大限引き出すべく長期間熟成されます 。2002年産も例外ではなく、第一次発酵後のワインはボトルに詰めて澱とともに約7~8年もの長期熟成が行われました 。実際、地下セラーで最低8年間の瓶内熟成を経てから出荷されるのがドン ペリニヨンのスタイルであり 、2002年ヴィンテージは2009年7月にデゴルジュマン(澱抜き)され、2010年頃に初リリースされています 。長い澱との接触によりワインに旨味と複雑さが与えられ、クリーミーなテクスチャーやトースト香といった特徴が育まれます 。澱抜き後にはリキュール・デクスペディション(ドサージュ)によって適量の糖分が添加されブリュット(辛口)に調整されますが、その糖度は控えめに抑えられています(詳細は後述) 。なお、マロラクティック発酵(乳酸発酵)についてはドン ペリニヨンでは全量で実施されており、2002年ヴィンテージも100%マロラクティック発酵が行われています 。このマロラクティック発酵により鋭い酸がまろやかな乳酸に転換され、長期熟成と相まって丸みのある調和した味わいに仕上がっています 。

4. 醸造設備とその影響(ステンレスタンク、木樽など)

ドン ペリニヨンの醸造は最新の設備で管理されており、全ての発酵工程はステンレス製タンク内で行われます 。モエ・エ・シャンドン社のハウスイースト(培養酵母株)を用いてステンレスタンクで発酵させることで、果実本来のフレッシュな風味やテロワール由来の特徴を純粋に表現する狙いがあります 。オーク樽は使用されていないため、樽由来のバニラ香やトースト香は付与されず、ドン ペリニヨン特有のトースティーな香ばしさは長期熟成による酵母由来のものです 。ステンレスタンク発酵により一貫した品質と衛生管理が可能となり、ヴィンテージ間でのスタイルの一貫性とエレガントな風味の両立が実現されています 。結果として、2002年ヴィンテージでもフレッシュでピュアな果実味と、澱熟成による複雑な香ばしさがバランスよく調和した香味プロファイルが得られています 。なお、一部の伝統的シャンパーニュで見られる木樽発酵(例:クリュッグなど)とは対照的に、ドン ペリニヨンは近代的手法でクリーンさと精密さを重視している点も特徴です 。

5. 化学的構成(酸度・糖度・アルコール・亜硫酸・泡の構造 など)

  • アルコール度数: 12.5%(ボリューム)です 。収穫ブドウの成熟度が高かった2002年はアルコール度数も平均的なシャンパンよりやや高めで、1996年と同程度、2008年より0.5度高い値となりました 。とはいえ過度にアルコール感は強くなく、全体のバランスは良好です 。
  • 酸度(酸味): 2002年はシャンパーニュの優良年ながら酸が鋭利すぎず丸みを帯びた年と評されます 。総酸度について公式な公表値はありませんが、シャンパーニュのヴィンテージとしては十分な酸を有しつつも1996年や2008年ほど際立った高酸ではないとされています 。一般的なシャンパーニュのベースワインはpH3.0~3.2程度 で総酸6~8 g/L前後と言われるため、2002年のドン ペリニヨンもpH約3.1前後、総酸約7 g/L程度と推測されます。マロラクティック発酵の実施により酸味の輪郭は柔らかくなり、熟成によって酸と他成分が調和したため、口当たりは爽やかさとまろやかさが両立しています 。
  • 残糖(ドサージュ量): エクストラ・ブリュットよりは高くなりますがブリュットの範囲内の低めの残糖です。2002年のドン ペリニヨンは約7~9 g/L程度のドサージュ(加糖)で仕上げられており 、一般的なブリュット・シャンパン(<12 g/L)よりややドライ寄りです 。この控えめな糖分添加によりフレーバーの純度が保たれ、酸とのバランスが取れた洗練された味わいになっています 。
  • 亜硫酸塩(酸化防止剤): 品質保持のため二酸化硫黄由来の亜硫酸塩が添加されていますが、その量は法定基準内に抑えられています。シャンパーニュのベースワインでは総亜硫酸がだいたい70~80 mg/L程度であり 、ドン ペリニヨンも瓶詰め時に必要最小限の亜硫酸が添加されるに留まります。長期熟成により酵母から抗酸化物質が供与されること、ボトリング後の澱との熟成で酸化が抑えられることから、添加される二酸化硫黄の量は抑制されています(瓶内二次発酵後の遊離亜硫酸はごく低く、10 mg/L前後) 。その結果、適切な酸化防止効果を保ちつつ過度な亜硫酸臭などは感じられない仕上がりです。
  • 泡の構造: ドン ペリニヨン 2002は瓶内で生成された二酸化炭素が約5~6気圧(大気圧換算)に達する、高いガス圧のスパークリングです 。これは液中に約10~11g/LものCO2を含むことを意味し、市販飲料の中でも最も高いガス含有量です 。長期熟成によって炭酸ガスがワインに細やかに溶け込み、グラスに注ぐと非常にきめ細かな泡となって立ち上ります。クリーミーで繊細なムースが舌全体に広がり、華やかな存在感を持つ泡が長い余韻まで続きます 。泡は力強さと同時にエレガントさをもち、ワインのボディを損なうことなく香味を口中で効果的に拡散させます。これは長期間澱とともに熟成したシャンパンならではの特徴で、2002年のドン ペリニヨンもその例に漏れません 。

6. ボトル情報と画像(Dom Pérignon 2002 Brut の確実な情報)

ドン ペリニヨン 2002のボトルは、伝統的なシャンパーニュボトル形状にドン ペリニヨンの象徴的な盾形ラベルが貼付されています。ラベルにはヴィンテージ年「2002」と原産地呼称「Champagne」、アルコール度数12.5%などが明記されており、正規品であることが確認できます 。容量は標準ボトル750mLで、フランス・シャンパーニュ地方エペルネにて生産されています 。初リリース時の国内希望小売価格は約22,000円で発表されました(発売当時は非常に話題となり、その後オークション市場でも価格が高騰しています) 。以下の画像に通常ボトルの外観を示します。

Dom Pérignon 2002年ヴィンテージ(ブリュット)の通常ボトル正面。ラベルには「Vintage 2002」やアルコール度数12.5%vol(750ml)といった表記が確認できる

7. データ概要と可視化による提示

最後に、本レポートの内容を踏まえてDom Pérignon 2002の基本データを一覧表にまとめます。グラフや図表を用いることで、その構成要素や特徴が直感的に理解しやすくなります。

  • ブドウ品種: シャルドネ約50%、ピノ・ノワール約50%(特級・一級畑のみ使用) 
  • アルコール度数: 12.5% 
  • 酸度 (pH): pH ~3.1(高酸だがマイルド) 
  • 残糖 (ドサージュ): 約7~9 g/L(Brut) 
  • 澱熟成期間: 約7~8年(2009年デゴルジュマン) 
  • マロラクティック発酵: 100%実施 
  • 発酵容器: ステンレスタンク(オーク樽不使用) 
  • 総亜硫酸塩: 約70~80 mg/L(推定値) 
  • ガス圧 (CO₂): 約6気圧(液中CO₂ ~10 g/L) 

以上のように、Dom Pérignon 2002は原料ブドウの卓越した品質と長期熟成による複雑性が融合したシャンパーニュであり、その香味プロファイルや化学的組成は当該ヴィンテージの特徴を如実に物語っています 。各項目のデータをグラフや表で視覚化することで、当該ワインの構造や特徴を体系的に把握することができます。例えばブドウ品種構成の円グラフ(上記)や、熟成期間・糖度・酸度などの比較表は、専門的な知識がなくとも本ヴィンテージの特性を理解する一助となるでしょう。

ドン ペリニヨン 2002年ヴィンテージ ブリュットの精密分析

ドン ペリニヨン 2002年ヴィンテージ(手前)と別ヴィンテージのボトル。2002年産は世界的にも極めて高い評価を受け、卓越した熟成ポテンシャルを示している。

1. リリース後の国内外における市場評価の推移

ドン ペリニヨン2002は発売直後から極めて高い評価を受け、主要評価誌で軒並み高得点を獲得しました。たとえばワイン・アドヴォケイト誌(ロバート・パーカー)は初回評価で96点を付け、ヴィノス(アントニオ・ガッローニ)は98点という驚異的スコアを与えています 。ワインスペクテーター誌も95点と評価し、「優美なパッケージに豊潤でスモーキーなシャンパン。きめ細かなテクスチャーで、ビスケットや砂糖漬けレモンピール、コーヒーリキュールなど層を成す風味」と絶賛しました 。発売当時(2009年前後)の希望小売価格は約$150程度でしたが 、その後も各国の批評家やソムリエから称賛され続けています。

このシャンパンの二次市場での価格も年々上昇しています。発売後しばらくは市場在庫が比較的豊富でしたが、近年では国際オークションで価格が非常に高騰し、入手困難な状況となっています 。質屋業者のレポートによれば、中古市場においてもドンペリニヨン2002は元の販売価格を上回る高値で取引されることが多く、特に未開封ボトルはコレクター間で高額になる傾向があるといいます 。実際、日本のヤフオクなどでも過去数ヶ月の平均落札額は一本あたり4~5万円程度に達しており 、発売当初から大きく値上がりしていることがわかります。

また、ヴィンテージ間の市場人気の比較においても2002年は際立っています。ロンドンのワイン市場分析(Liv-ex)では、類似品質とされる2004年産シャンパンよりも2002年産の価格が平均で2割以上高いプレミアムで取引されていると報じられました 。これは2002年ヴィンテージ全般の評価が依然として突出して高いことを示しており、ドン ペリニヨン2002も例外ではありません。例えばアントニオ・ガッローニ氏は2022年末の再テイスティングでも満点に迫る98点を再確認し、「発売から20年近く経ってなお若々しく、ショッキングなまでの新鮮さを保っている」と賛辞を送り、少なくともあと20年は卓越した飲み頃が続くだろうと述べています 。このように、リリース以降の評価は高止まりどころか時間と共にさらに価値を増し、市場価格・批評家評点の双方で上昇傾向を示しているのが2002年ヴィンテージのドン ペリニヨンです。

2. 他ヴィンテージと比較した際に2002年産が特に高評価な要因

2002年はシャンパーニュ地方全体が近年まれに見る偉大な当たり年であり、その恩恵を受けたドン ペリニヨンも例外なく卓越した出来栄えとなりました 。ワインスペクテーター誌のヴィンテージチャートでは「1996年以来の最高の年。複雑さと豊潤さがあり、それを力強く生き生きとしたストラクチャーが支える。最良のものは長期熟成に耐える」と評され、2002年全体に94点という高いヴィンテージ評価が与えられています 。実際、収穫期は天候が極めて良好で、晴天と適度な乾燥が続きブドウは完熟かつ健全でした 。とりわけシャルドネ種の糖度が高く「途方もない熟度」に達した年でもあり 、その豊かな果実味と凝縮感がシャンパーニュに力強さと厚みをもたらしました。一方で猛暑や長雨といった極端な気象に見舞われず酸も適度に保持されたため、果実の豊かさとキレのある酸味が高次元で両立しています 。評論家も「2002年シャンパーニュは異例の凝縮度で、力強さ・豊潤さ・構造が完璧なバランスで調和している」と評価しています 。

こうしたヴィンテージの卓越性に加え、当時のドン ペリニヨンの醸造責任者リシャール・ジョフロワ氏によるスタイル革新も寄与しました。ジョフロワ氏は「2000年からスタイルの進化を開始し、2002年にそれが真に花開いた」と述べており 、従来のエレガントさに加えてヴィンテージの個性をより強く表現する方針を打ち出しました 。その結果、2002年産のドン ペリニヨンはその年の特性(熟度の高さと豊かな果実味)を余すところなく体現しつつ、ハウススタイルのエレガンスも両立した仕上がりとなっています 。ガッローニ氏も2002年の出来を「圧倒的(towering)」と表現し、周辺の2000年や2003年ヴィンテージより明らかに「少なくとも一段は上の出来」と評しました 。また、シャンパーニュ専門家のタイソン・ステルツァー氏は「近年のシャンパーニュ史で2002年ほどフィネス(優美さ)、パワー、構造を高次元で両立した年はない」と述べています 。同席した栽培家ディディエ・ジモネ氏も「エレガンス、凝縮感、フレッシュさの究極のバランスを備えた1990年以降で最高の収穫年」と賞賛しており 、まさに2002年の原料ブドウ自体が非凡だったことが伺えます。

さらに、他の銘柄との比較でも2002年の卓越性が際立ちます。著名なプレスティージュ・キュヴェでは同年の傑出例が多く、例えばタイタンジェのコント・ド・シャンパーニュ2002は「史上最高のシャンパーニュの一つ」とまで称され 、クリスタル2002やボランジェのヴィエイユ・ヴィーニュ2002も各評論家から98~100点級の評価を受けました 。ドン ペリニヨン2002もそれらと肩を並べる評価を獲得しており、事実ガッローニ氏によるブラインド比較テイスティング(2023年)でも2002年産が2004年産を総合的に上回るとの結論が出ています 。総じて、2002年ヴィンテージが特に評価される要因は、(1) ブドウ生育年の理想的な気候による品質の飛躍的向上、(2) 醸造面でヴィンテージの個性を最大限に引き出した手腕、そして (3) 他年と比較しても抜きん出たバランスと完成度――これらが相まって「近年で群を抜く伝説的ヴィンテージ」 との呼び声を確立しているのです。

3. 高評価の根拠となる化学的構成や自然条件

ドン ペリニヨン2002が高品質と言われる裏付けには、そのワインの化学的な構成要素と醸造上の工夫が大きく関与しています。

まず、酵母と発酵管理です。ドン ペリニヨンではハウス(自社)培養酵母株を用いて一次発酵からマロラクティック発酵まで行い、ブドウ畑・区画ごとに個別に発酵を管理する徹底ぶりです 。2002年は収穫ブドウの栄養状態(窒素含有量など)が良好で酵母発酵も順調に進み、発酵異常による揮発酸の上昇なども抑えられましたと推測されます。実際、高品質スパークリングワインでは揮発酸(酢酸)は極めて低く保たれる傾向にあり、ドン ペリニヨンも例外ではありません 。マロラクティック発酵の完了によりリンゴ酸が乳酸に変換され、酸味の一部が柔らかくマイルドになる一方でpHは若干上昇します。2002年の基酒はマロラクティック発酵後でpH約3.1~3.2程度、総酸6 g/L前後と推定され、シャープすぎないまろやかな酸と洗練された口当たりをもたらしました。このバランス調整が2002年の豊満な果実味と調和し、厚みがありながら綺麗な輪郭を持つ味わいに寄与しています 。

次に、ポリフェノール(フェノール成分)と酸化還元バランスです。2002年はブドウが十分熟し種子や果皮のフェノール熟成も進んだため、ワインに適度なポリフェノール由来の骨格が備わりました。これは長期熟成に耐えるタンニンと抗酸化成分をもたらし、ワインの劣化を防ぐ要因ともなります。一方で猛暑年の2003年のようにフェノールが過剰になり苦味が表に出ることもなく、あくまで滑らかな渋みとコクの範囲に収まっています 。ジョフロワ前醸造長は「2003年は酸の代わりに厚い果皮由来の苦味を構造に取り込んだ特異な年」だったと述べていますが 、対照的に2002年は十分な酸と適度なフェノールがバランス良く共存する恵まれた年でした。このため苦味成分が不要に強調されることなく、むしろ味わいに奥行きと構造を与えるポジティブな要素となっています。

さらに、ボトル内二次発酵とガス圧・熟成期間も重要です。シャンパーニュは瓶内で二次発酵させる際に約5~6気圧もの高圧の二酸化炭素を発生させます 。ドン ペリニヨン2002も適正なガス圧下で長期間瓶内熟成されました。通常のヴィンテージでは最低7年間“澱と共に”熟成させるところ、2002年は約8年もの熟成期間を経て2009年前後にデゴルジュマン(澱抜き)されています 。この長期のシュール・リー熟成によって酵母由来のアミノ酸やマンプロテインがワイン中に溶け出し、クリーミーなテクスチャーと旨味が形成されました。実際、2017年時点で初リリース版(P1)と追加熟成版(P2)を比較試飲した際、P2では「初期リリースと同等の豊潤さを持ちながら、より生き生きとしてクリーミーな味わい」が感じられたと報告されています 。これは長期澱熟成がもたらす官能的な変化であり、2002年の高い評価の一因となる滑らかさと深みはこのプロセスに負う部分が大きいのです。なお、ドン ペリニヨンでは一次発酵・熟成にオーク樽を使わず極力酸素接触を避ける手法を取っています 。この還元的な醸造アプローチにより、若い頃は火打石やスモーキーなニュアンスを帯びることがありますが、ワインは酸化から守られ非常に長命になります 。事実、最低7年の瓶内熟成後も澱と共に熟成を続ける「プラニチュード(P2、P3)」では20年、30年以上経ても色調の若さと果実の新鮮さを保つボトルが存在します 。2002年産もリリース後16年熟成のP2が限定発売されていますが、その際シャンパーニュ評論家ヴィンセント・シャプロン氏は「2002年は1990年に最も近いスタイルの完熟で力強いドン ペリニヨンだ」と述べ、通常版と比べても進化のスピードが非常に緩やかである点を強調しました 。このように卓越した熟成耐性を裏付ける化学的・醸造的要素(酵母管理、酸・ポリフェノールのバランス、長期澱熟成、還元的手法)が総合的に寄与し、ドン ペリニヨン2002の高評価を支えているのです。

4. 世界のソムリエやシャンパーニュ専門家による近年のコメント・再評価

ドン ペリニヨン2002は発売から約20年が経過した現在でも、世界中のソムリエや専門家から賞賛の声が相次いでいます。例えば、前述のアントニオ・ガッローニ氏は2022年末のテイスティングで「2002年はその時代を超越したタイムレスなシャンパーニュだ。若い頃の豪奢さを今なお湛えつつ、信じがたいほど瑞々しい新鮮さを保っている」とコメントし、アプリコットや熟したピーチ、バターやドライフラワーの芳香が幾重にも折り重なりフィニッシュを圧倒する様子を絶賛しています 。98点という再評価スコアからも、年月を経てなお評価が揺るがないどころか一層確固たるものになっている様子が窺えます。

また、日本人のトップソムリエやワイン専門家からも近年コメントが寄せられています。2019年にハワイ島で開催されたドン ペリニヨン2002 P2(16年熟成版)のグローバルお披露目会では、日本から招かれた吉川慎二氏(投資家・ワインエキスパート)と宮澤弦氏(ヤフー執行役員)がその味わいを語っています。吉川氏は「グラスから立ち上る泡はまるで星空のよう。シトラスを基調にオリエンタルなハーブのニュアンスが感じられ、香り・味わいともに非常に複雑だ。時間とともに表情を変える刺激的な一面を持ちながら、口当たりはマイルドでクリーミー。まさに僕のようなシャンパーニュだね(笑)」とユーモアを交えつつ、その多層的な香味と質感を表現しました 。宮澤氏も「地中で育まれたブドウが太陽と時間、人の英知を得て進化し、このような芸術品に昇華されるのは本当に奇跡だ」と述べ、長い熟成を経て完成された2002年P2に深い感銘を受けたとしています 。

さらに2023年11月にはイギリスのワイン評論家ジャンシス・ロビンソン女史が著名シャンパーニュ50種のブラインド比較試飲を行い、2002年 vs 2004年の頂上対決において「総合的に2002年に軍配」を上げました 。ロビンソン氏は平均得点の僅差にも言及しつつ、「スコア差が小さいことを考えると、平均価格が2割以上安い2004年は相対的なお買い得に映るかもしれない」とコメントしています 。裏を返せば、市場が2002年に依然高い付加価値を与えている事実を示すものです。このテイスティングにはドン ペリニヨン2002も含まれており、同氏の過去評価を上回る高評価を得たことから(※参考:ロビンソン氏は2020年時点で18/20点→2023年には19/20点に引き上げ )、年月による再評価が好意的に進んでいることがわかります。

著名ソムリエによる現場での声でも、2002年への称賛と期待は後を絶ちません。ある米国のワインバーでは「何年も眠らせていたボトルを久々に開けたら、そのあまりの素晴らしさに打ちのめされた。時折こうして思い知らされるのだ、2002年がいかに凄いヴィンテージであるかを」といったコメントがSNS上で共有されています 。またフランスのオークションハウス関係者は「近年のシャンパーニュ熱の高まりの中でも、ドン ペリニヨン2002の存在感は別格。市場取引量でも価値でもトップクラスだ」と述べており 、実際にLiv-exの週次取引ランキングでドン ペリニヨン2002が取引額トップに立つ場面も報告されています 。

総じて、世界的なソムリエやシャンパーニュ評論家たちはドン ペリニヨン2002の現時点での完成度と将来性に太鼓判を押しています。20年経った今でも「まだ若々しくピークはこれから」と評価する声も多く 、第三の熟成ピーク(Plénitude 3)に至るポテンシャルを信じる向きもあります 。こうした近年のコメントや再評価動向は、ドン ペリニヨン2002が時を超えて評価が深化する稀有なヴィンテージであることを改めて裏付けるものと言えるでしょう。