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スプリングバンク Springbank 12yo ‘100 Proof’ (57.1%, OB, 2400 Bts, early 1980’s, imp. Samaroli) c1982

タケモトカツヒコ
タケモトカツヒコ
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タケモトカツヒコ (プロフィール


【スコア】100 pts (採点時点での個人的No.1ボトル)


遂にこのボトルのテイスティングノートを上げることにしました。

前置き長くなると思います、しかも極論的です。。。すみません。


ある意味集大成という意味を込めて、改めて書いておきたいと思いますが、自分にとってウイスキーを飲み続ける目的の最たるものは、毎度アルコールに依る快楽を得るためだけではなく、「究極に美味しいウイスキーに出会いたい」からであります。

ちょっと言い換えますと、「究極に美味しいと思う」ために飲み続けているとも言えます。セッティングを整えるというのか、言葉は悪いですが意図的な自己誘導のための洗脳みたいなものです。


例えば「梅干し」を食べるとします。味わった経験のある方であれば、それなりに体は条件反射します。しかもそれは強制的です。これは飲酒として足るアルコールが酩酊を与えるのとほぼ同義だとさせてください。

では、モンブラン、ショートケーキ、チョコレートケーキを食べるとします。甘いものが好きな方であって、栗も生クリームもチョコレートも、その構成成分が大好きな方であれば、その味覚は至福のひとときをもたらしてくれます。

ただ、どうでしょう。

甘いモノが好きだからといって、砂糖だけを舐めるのと、それなりのケーキを食べるのとどちらが幸せでしょうか。大抵はケーキのほうがより美味しいと感じると思います。

甘いものが与える幸福感というのは、本質単体よりも栗・生クリーム・チョコレートという要素と一緒に味わったほうが、相加相乗作用といいますか、より閾値が増すわけです。


ウイスキーも結局似たようなものだと思うのです。甘さというよりも、先の梅干のような強制感をもつ「(飲酒に足る濃度の)アルコール(以下アルコール)」。これがただ単にピュアな状態で存在するよりも、より多くの味覚やその他の感覚と共に味わったほうが、最終的に自分が得られる幸福感は大きくなる。そういうお酒だと思います。

ただ、食べる時に自分が通常の精神状態であれば、単にインフォメーションが多いこと=美味しいことにはなりません。

例えば、ケーキの上に納豆がのっていたとします。味が合いません。これでは意味が無いどころかマイナスです。

以前USUKEBAでシングルモルトマニアックスという記事を続けて書いていて、結局そこで最終的に「ウイスキーのもたらす覚醒とは何か?」を説明しようと思っていました。

ここで掻い摘んで申し上げると、「アルコールによって飲む人の意識が変性させられると、通常の精神状態では嫌だと感じる要素も、その程度によって美味しくなることがある。この味覚の変化には過去の経験に因る記憶が大きく介在する。」

つまりウイスキーによって覚醒する状態というのは、「ウイスキーのアルコールによって、変性意識がもたらされ、論理的思考能力が低下したことによって、通常時の味覚がもたらす感情よりも、過去の経験による記憶が結びついた感情が優先される状態」となったと言えるのではないか。。。ということを解説しようと思っていました。通常の状態では得られない感覚、感情。。。それが覚醒ではないかと。

間違いなく「強烈なアルコールと複雑な味覚・嗅覚(一部触覚)」、これが変性意識を生み、覚醒をもたらすのでしょう。


まるでややこしい薀蓄論のようですが、分かりやすくいうと、コーヒーも楽しく飲んでいくうちに美味しくなるのと同じで、モカよりもキリマンジャロを好むとかいう嗜好にも近い話です。

そこで私は、以前から書かせていただいているように、「究極に美味しいウイスキーに出会うため」さらに「それを味わい尽くせるため」に、ウイスキーを飲むときには、なるべく良い記憶が残るように心がけています。嫌な経験は避けるか、できるだけ早く忘れるようにします。(味覚嗜好の為だからです。生活全般とは違います。)

ウイスキーという「材料」によって自分を至福にもたらすには、それが一番だと考えられるからです。結局のところウイスキーを飲んだ、味わったことで脳がどのように神経伝達物質を放出して、それを自分がどう感受したかということでしかないからです。


付け加えるとアンリアルなことをリアルに感じてしまう部分がある「変性意識」下では、味覚以外にも、自らの幻想や願望といった潜在意識が、あたかも本当であるかのようにも記憶されてしまいます。感覚と感情が結びついた記憶いうのは、新たに物理的に実在する「神経」を形成するからです。通常の精神状態では警戒心や論理的思考が働くために、「ありえない」と 記憶されないことでも、アルコールというある意味ドラッグが絡むことで、価値判断をスルーしてアンリアルな事柄を信じこむ(記憶する)可能性があるのです。これは第三者からもたらされるインフォメーションに対しても同様に作用する危険性があります。

回避するためには、このような傾向があることを予め知った上で、自らを上手くコントロールするしかありません。上手くコントロールすればこれほど良質なレクリエーションスタッフも他にはないと私は思います。

ですから、楽しいことならいいのかもしれませんが、私は常に「味覚・嗅覚」をなによりの価値判断の中心に据えて飲みながらテイスティングノートを書き、日を改めて平常な状態で客観的に信頼に足るデータとともにまとめてきました。長期記憶としてそれらを残したかったからです。その他の感覚に起因する事柄やマイナスな要素は積極的に排除してきました。それが「美 味しいウイスキーを味わうための環境づくり」だと思ったからです。

。。。ということで数ヶ月、スプリングバンク 12年 100プルーフ OB for  サマローリに向きあってみました。

史上最強のシングルモルトウイスキーを挙げろと言われたら、必ずその筆頭に名を連ねる、名実ともにナンバーワンボトルであります。

私はサマローリのボトルに何度も何度も感動させてもらいました。こういった情報や経験が素直に至福につながるなら、大いに結構ではないかと。内容は素晴らしく、その期待に十二分に応えるものでありました。


【ファースト】:卒倒 濃い琥珀 光を透過させるとはっきりと周囲が赤みを帯びる 杏(+) 巨峰(+) スミレの香り(++) イチゴジャム(++) ブルーベリー(++) 奥から軽く練乳  開栓初期にははっきりとヨーグルト、粉ミルク、乳酸があるものの後期には抜けてしまっていた  イチジクの丸煮の甘い香り(++) オイリーさは松ヤニが小さい塊の様に複数存在していて、スミレ、巨峰の香りとあいまってザクロ 上質なジャックローズ(カクテル) シェリー由来の重さは確かにヘヴィーであるものの決して行きすぎていない、最重量級の9割ぐらいか  時間を経ると素晴らしく燻製された麦の層と干し草の層が現れる この時の果実感はオレンジから柿  さらに経過するとレモンのムース様に変化する

【ミドル】:ボディはボトムに厚みがある エッジの輪郭が決してピッタリ重なっているわけではなく、ごくごくわずかに重複していることが判別できるために、それがむしろエッジを上手くぼやかしていて上品、高貴な印象をもたらしているように感じる   時間が経過すると粘性がクリーミーさを若干帯びてシルキーに   フレーバーとして杏、甘草様のオイリーさとイチゴジャム、ブルーベリー、ヨーグルト、芯の部分に燻製された麦と干した麦が融合している  何度も飲むうちに決して2つの出発点ではなくもっと多くの出発点から爆発的に盛り上がり始めることに気づく  口に含み嚥下する間に一瞬あれ?と思うと呼応する様に隆起が始まる  静かなブドウと麦、オイリーさが中心に感じられる層と、時間差を持って俄然パワフルに爆発する麦の層がそれぞれに存在するはずと感じるのだが、決してそのレイヤーは分離していない( きっと甘草様のオイリーさと酸味が上手く作用している ) 軽いスミレの香りと松の静粛さを感じさせる高分子ポリマー(ヤニ・樹脂) きっとこれがボディのエッジに粘性を与えている正体か

【フィニッシュ】:ここにきて若々しい返りが怒涛の様に炸裂する(++)  しかしそれはエッジが立っている様なことはなく、高貴なシェリー由来のフレーバーを纏ったアルコール感が上から覆いかぶさり、押さえつけている様に感じる   鼻抜けは究極の至福(+++) 巨峰の後味、ザクロの粒感、濃厚なジャックローズ  アルコール感の芯が素晴らしく太い  粒の細かいソーダ感   松の崇高さを感じさせる樹脂と深みのあるレザーに、草の様な植物感にプラスしてイチゴの種、オレンジというには酸味の足りない、銀杏ほど渋くない、なんらかの実のようなフレーバーが現れる(これは今までにウイスキーを飲んで感じたことがない要素だ)   余韻でオイリーさと麦感がアーモンドの皮のよう  鋭くない唐辛子  カモミール 生姜のような 温冷真逆な生薬が同居している


昨年11月に開栓し、イベントを含め様々なシチュエーションで何回もテイスティングを行ってきました。

分かったことは、当たり前なことかもしれませんが、熟成年数の違いか、ヴァッテイングによってキャラクターの異なるものが、極めて崇高にマリアージュされていること。そしてオイリーさというか樹脂というか、粘性のある成分がそれらをつなぎ合わせていて、近すぎず遠すぎず、ぴったり重なることもなく、極々わずかなズレを補正していて、強度のある要素には、重さやむしろ真逆の成分が支えとなり、奥ゆかしく奥深く複雑さを増す方向性で働いているように感じられます。

決して打ち消すことなく、分離しては捉えきれない。でも全くヒントがないわけではなく、回数を重ねて時間をかけて向かい合っていくと、最終的には想像通りの展開が現れてくれるようになるというべきか、距離感として絶妙です。

アルコール感についても、フレーバーを纏わない、ある意味ホワイトスピリッツのような鋭い要素は皆無で、完全にウイスキーとして成熟していると思いました。

ボトリング後にボンボンのような役割でわずかに少しずつ成分が落ち着いていって、テクスチャに丸みを帯びさせていった効果もあったのだと考えます。

開栓後は乳酸、ヨーグルトの要素が時間の経過で現れ、全体的にも複雑性が高かったですが、開栓から1ヶ月で乳酸系の要素は飛んだのか変化したのか感じられなくなり、2ヶ月経過後からは全体の輪郭、甘さ、アルコール感が判別しやすくなり、複雑性と奥行きの面では低下、それでいながらシェリー由来の成分の酸化物重量によるためか一時重さも増したように感じました。

重さが増してもそれぞれの成分が融合したというべきかフレーバー種類としてはどんどん”間引き”されていった感じです。最終的にはその時点で同一ボトルへの経験が増したために把握できたのか、要素が減ったからわかりやすくなったのか、全体的な像が理解できた気持ちになります。

全体的に非常に複雑。でも何度も飲むうちにそれぞれの要素が決して足を引っ張っていないと思えてきます。

これまで飲んできたウイスキーの「良い記憶」が、複雑なフレーバーの各要素に呼応して湧き出てきます。

あらゆる意味で至福。

現時点で明確に、自分にとっても史上第1位・シングルモルト・ウイスキーとなりました。

100 pts