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第3回SBT bottle A@T.Matsuki出題 正解発表

皆様、今回もSBTに参加、閲覧していただきありがとうございます。

ボトルAの出題者は私T.Matsukiでした。

さて、さっそくボトルAの正解ですが・・・・、

GMのグレンバーギー35年でした。

 

GLENBURGIE 35yo GORDON & MACPHAIL Distillery Labels 46%(加水)
蒸留年不明 2012年流通品 フランス向け?
価格:約15000円

GMのいわゆる蒸留所ラベルのグレンバーギーです。
以前から同じラベルで何度もリリースされていると思いますが、内容は毎回異なります。
それぞれのリリース本数も不明ですが、結構な数が一度に出てきていると思います。
その中でもこれは一番最近の流通品で、裏ラベルを見るともとはフランス向けだったようですが、日本に入っています。
今年2月にBARで初めて飲みましたが、今でも店頭で普通に売っているのを見かけます。
(このボトルを購入した酒屋さんにお聞きしても、あまり売れておらず今も普通に売っているとのことでした。)

後にテイスティングノートも記載しましたが、個人的には非常に良質なモルトだと思っています。

これだけ美味しいのにまだ普通に売っており、話題にもなりづらいのは、ヴァッティングの加水タイプであるということ、つまりシングルカスクではなくカスクストレングスでもないということが影響しているのではないかと思います。
今回はそれをテーマに出題しました。

 

ヴァッティングによって味が複雑になったり安定したりすること、またある程度の本数をリリースできるので広く流通させられることなどのメリットについては、以前からWLのメンバーと一緒にしつこく書いてきましたが、そのことに加えて、このボトルを今回選んだのは、加水タイプであるということです。

最近しばしば思うのですが、加水には加水の良さがあります。
ヴァッティング同様に、一部のオフフレーバーが緩和され、バランスが良くなり品質も安定するという良さがあります。
また、特に香りを楽しむことにおいて、加水はカスクストレングスに勝るとも劣らないのではないでしょうか。
開栓したてから香りが開いていることも多いですし、それぞれの香りは確実に拾いやすくなっています。
※そのため今回は、あえて抜栓直後のものをそのまま小瓶わけさせていただきました。
加えて、飲みごたえがほどほどになりやわらかくなり、スムーズに飲み進めることができます。ストレスフリーに美味しく飲み進められるというのも、ひとつの魅力であると思います。

また、私はテイスティングノートに、「気難しいタイプ」⇔「近寄りやすいタイプ」と書くことがよくあります(主観的すぎて公表しないことも多いです)が、当然ながら加水タイプの方が近寄りやすい、打ち解けやすいタイプであることが多いです。

カスクストレングスに加水をすればいいじゃないかという考え方もできるとは思いますが、私も含めて恐らく多くの方が感じているように、もともと加水でボトリングされているものと、カスクストレングスに自分で加水したものでは全然違う印象です。加水をしてからの時間による変化なのか、チルフィルターなどとの関連なのか、正確にはわかりませんが、あらかじめ加水されているものの方が香りの広がりも滑らかさも飲み心地も良いように思います。

 

やはり数量限定のシングルカスク、カスクストレングスはウイスキーファン、コレクターの購買意欲を刺激します。
ヴァッティングの加水で本数もたくさん出ており、しかも見慣れたこのGMのラベルはありがたみがなく、無意識にスルーしてしまいがちです。テイスティング時にもラベル酔いとは逆に、ラベルで過小評価して魅力を見逃したりしてしまいがちだと思います。しかし少なくとも美味しさを重視するドリンカーとしては、こういうボトルの魅力も認識しておきたいですね。

美味しいボトルが長い期間流通して、多くの人が楽しめるということはとても素晴らしいことだと思いますので、 こういうヴァッティング加水の需要やリリースも今後増えていってくれると嬉しいです。美味しい昔の樽がどんどん過熟になっていくこのご時世ですからなおさらです。
極端な話をすれば、濃厚で旨いけど過熟で飲むのがしんどいボトルのシングルカスクが高額でリリースされ、その少ないボトルを皆で取りあうよりも、うまくヴァッティングされ、さらに良くなるようなら加水もされ、安く美味しくストレスなく、それでいて少し陶酔感も感じられるようなボトルにたくさん出てきて欲しいのです。それを皆で長く楽しめたら素敵だなと思うわけです。

補完しあう個性の樽が必要になってくるので、オフィシャル以外では大量のストックがあるGMのようなボトラーでないとなかなかできないことかなとは思いますが、一昔前のボトラーズのものには、ヴァッティング加水のもので熟成感があり美味しいものも結構あります。最近でも安価で飲みやすいシリーズとして出てくることはありますが、ある程度以上の熟成感があってヴァッティングの妙も感じる今回のボトルのようなものはGM以外では少ないように思います。大量のヴァッティングをするオフィシャルとは違ったボトラーごとの個性を感じられれば、棲み分けも出来て楽しいですね。

 

さて、今回の出題ボトルですが、香りにも味わいにも深みがあるのに、非常に近寄りやすいタイプのボトルだと思います。 ストレスなく、美味しく飲み続けることができます。(そのためにドリンカーの意識に引っかかりづらく、注目を浴びづらいという一面もあるように思いますが・・・。)

特筆すべき点は、すぐに香りが開き、長期熟成のナチュラルなフルーティさを探さずとも堪能できることでしょうか。 複雑な香味を拾って味わうのも楽しいですし、なんとなく飲んでも美味しさが舌の上で綺麗にまとまってくれる印象です。
やや強めのウッディネスも、飲むと綺麗なまとまりの中の一要素になっているように感じますが、 これはヴァッティングの恩恵だけでなく加水による部分も大きいと思います。なにせ使われた樽のすべてが35年以上のものですから。
値段は約15000円と激安というわけではありませんが、35年以上の長期熟成モルトの陶酔感を感じられて、 なおかつオフフレーバーのほとんど無いモルトとして、CPはかなり高いと思います。

まだ購入できますし、長くモルトを飲んでいるドリンカーにはもちろん、長期熟成のモルトの良さを認識したい初心者の方にもぜひお勧めしたいボトルです。

以下が、私の書いたこのボトルのテイスティングコメントです。 自分のブログに載せようと書いたものを、そのまま記載します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

・香り:
開栓直後から華やかで強い発香。複雑だがフルーツ感がどんどん湧いてくる。
アプリコットジャム、熟した洋ナシ、オレンジ、桃、バナナミルク、リンゴジュース、少し白ブドウ、甘く濃い蜂蜜、ヴァニラ、蜜蝋、ワックス、樹液、カスタードクリーム、紅茶、やや強めのウッディネス、ヒノキ、心地良く優しいモルティもある。長熟らしい陶酔感も感じられ、複雑だが落ち着いた雰囲気。

・味わい:
アプリコットを中心に熟成感のしっかり出た複雑なフルーツと心地よいモルティ、滑らかでかなりクリーミー、蜂蜜のような心地よい甘味と味を深める木の渋味、鼻に抜けるメンソール、ヒノキを伴うウッディネスは後半やや強め、最後に主張してくるピート。やわらかな口当たりからじわじわと広がりしみ込むような旨さであり、ヌルッと粘性があり樹液を飲んでいるような感じもある。甘味や渋味、フルーツと麦とピート、それらがとても良くバランスしている。ミディアムボディ。

・余韻:
樹液とクリーム、木の渋味、ややウッディネスが強いが嫌味ではなく、心地良い余韻。

・加水:
驚くほど崩れない。OBのような安定感。

・総評:
まず熟成感を感じる複雑かつナチュラルなフルーツが特徴的だが、滑らかでクリーミーな味わいがあり、麦感やうっすら感じるピートも効いている。加水だが度数の低さをマスクするような深みがあり、迫力は無いが決して平坦ではない。そしてまるでOBのようにバランスが良い。そんな中ややウッディネスが強い印象だったが、ギリギリ嫌味に感じないのは加水の妙だろうか。GMのストックとヴァッティング技術を感じる1本。35年モノとしてはCPも素晴らしい。

【Very Good】

最近では、開栓から飲み終わるまでがダントツで一番早かったボトル。
まだ普通に出回っているボトルです。値段は15000円ほど。
香りは開栓直後から開いていて、複雑ですが拾いやすく、ノージングはかなり楽しいです。
香り・味わいともにナチュラルなフルーティがあり、長熟の陶酔感もあります。とろっと甘くクリーミーで、樹液っぽさもあり、美味しいグレンロセスやクライヌリッシュともいくつか似たニュアンスがありました。加水でバランスが良く嫌味もなく飲み心地が良いため、次々と杯を重ねてしまいます。複雑で深みもあるのに非常に近寄りやすい印象で、なんとなく飲んでもノンストレスに飲み進められますが、真剣に向き合って飲んでもそれに応えてくれる懐の広いボトルです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

さてさて、前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、このボトルに対するテイスターの皆さんの評価・予想はこちら

やや強めの渋味くらいしか欠点を感じず、長熟のナチュラルなフルーティさやしっかりした甘味が感じられ、 間違いなく万人受けするであろうと思っていたのですが、びっくりするくらい二極化しました。。。

今回の出題ボトル5種類の素晴らしいラインナップの中にもかかわらず、最高評価をくださった方が私を除く参加者の10人中4人(あだもさん、ガースーさん、くりりんさん、naoskprsさん)と一番多く、感激しました。
しかし逆に、最低評価とされた方も3人と一番多かったです。
賛否両論になるとは思ってもみないボトルだったので、かなり興味深い結果でした。

低評価の理由としては、後半から余韻にかけての苦味や、薄く個性に欠けるという点がありました。
たしかにヴァッティングされた樽の中にはかなり過熟なものも含まれていると思われ、ヴァッティング加水により緩和されているとはいえ、このボトルにも後半に多少の渋味として感じられますが、これが苦手な方には厳しいボトルだったのかもしれません。苦手な要素があると他の良い部分がかき消されてしまうということは、私自身もしばしば経験します。
また、加水でややボディが軽くなっており、非常にバランスが良い反面、薄く無難という印象を持たれた方もいたようです。この辺は加水ボトルの場合表裏一体な部分でもありますので、どちらを重視してテイスティングするかが評価が大きく変わるポイントだったようです。

私と好みが近い方にはやはり好評だったようで、特に出題意図通りの評価だったのは、香りの出方の良さとナチュラルで豊富なフルーティを指摘していただいたnaoskprsさんでしょうか。出題者冥利に尽きますね。蒸留所も近い路線で、度数、蒸留年や熟成期間、価格までほぼその通りです。
いつも辛口のくりりんさんからは相当高い評価をいただきました。私と好みや味わい方が似ているのできっと好きだろうと思ってました(笑)。加水も指摘されると思ってましたが、期待以上に好みに合ったおかげか濃い味に感じてくれたようです。
あとはガースーさんの、なんとなく漠然としているけれども的の中心近くを射抜いているテイスティングコメントも好きでした。
全体として、濃いめのフルーツや蜂蜜、何よりクリーミーなニュアンス、そして樽の渋味を指摘して下さった方が多く、そのあたりがこのボトルの中心を担っている特徴なのかなと思いました。

なお、高評価をしてくれた方はもちろん、そうでなかった方の中にも抜栓直後のこのボトルの香りの良さを指摘してくれた方がいて、加水ボトルの香り立ちの良さを確認できました。
また、ヴァッティング・加水の印象を指摘された方も少なからずいて、さすがのハイレベルを実感しました。

結果には出題意図通りだった部分、予想だにしていなかった部分が共にありましたが、上記のように非常に興味深く考えさせれられる内容でした。

今回も私の出題ボトルをストイックに飲んでいただきありがとうございました。

 

T.Matsuki