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【はじめに:日本におけるウイスキーの存在・過去現在】草稿250301



【はじめに】



日々どんなお酒を求めるかというのは人それぞれだと思いますが、日本のお家芸であるところの「日本酒」「焼酎」を乗り越えて、更にウイスキーにたどり着くという人は、数年前まで決して多くはなかったと思います。

どちらかというと日本におけるウイスキーの立ち位置というのは、ボトルキープのお店で1本入れて、それを水割りやロックで飲むというイメージがあったと思いますし、それが今も根強く愛好される一方、直近ではハイボールが再び人気となって、飲食そのものが健康食(オーガニック、ローカロリー、ロープリン体、糖質制限など)ブームであったことも手伝って、若年層にもウイスキーが浸透。BARだけではなく、もっと気軽に、居酒屋でもビール代わりに、最初の一杯からウイスキーが選択されるまでになりました。



特に若年女性の急進力はすさまじく、お酒はお酒であっても、ウイスキーを選択することが、「健康」や「ダイエット」、「美」と「飲酒」を両立させる方法論となり、これが従来日本におけるウイスキーの立ち位置、「スナック+中年男性+ボトルキープ」というイメージを、華麗に払拭、変化させてくれたようにも思います。



ちょっと言い過ぎたかもしれませんが、兎にも角にも現実的に、飲酒層のウイスキーに対するイメージはここ数年で一気に向上しましたし、ハードルも俄然低くなりました、ハイボールのおかげで、食事の前後最中問わず、いつでもどこでも試すことができる身近な存在となりました。


とてもありがたいことです。



そこで本書は、どんな場所、どんな飲み方であっても、ウイスキーを飲んで興味を持ち始めた方々に、さらにもう一歩深く、もし自分が今から飲み進めるのであれば、こういった「道筋」で歩んでみたいという観点で、香味の幅を広げる理想的な方法論を書かせていただきたいと思います。

もはやウイスキーが日常の一部となっていて欠かすことができない段階に至っている方々に向けては、テイスティングコメントの共感共有、「極める」段階に至るまでにはどんなボトルが存在するのか、なぜそれが極みといえるのか、どんな香味なのか、なるべく主観と客観を区別した上で、知識経験のすべてを注ぎ込みたいと思っております。

簡単に言うと、ウイスキーに関係するあらゆることを、あともう一歩深める本になればと思っています。しかもそれぞれに、根拠を示して、その置きどころに共感いただけるかどうか、まずは一人のウイスキー馬鹿の認識を提示・解説させていただこうという試みにしたいと思います。



さて、そもそも日本におけるウイスキーの浸透には、どんなきっかけがあったのでしょうか?

もちろん時代時期での流行りというものがあったと思いますが、輸入ウイスキーに関しては、(日本で)1989年4月、消費税導入と同時に酒税法が改訂されたことが、もっとも広く大衆的に輸入ウイスキーが浸透したきっかけになったと個人的には考えています。

日本国内で流通する国産輸入を問わない、ウイスキー類(ブランデー含む)の級別制度、従価酒税制度が廃止されたことで、単価が安くなり、それまで高嶺の花で贅沢酒の代表だったウイスキーやブランデーに手が届きやすくなりました。



元々この税制改正は当時のEC(欧州共同体)から日本への「酒類輸入増」要求に沿ったものであるとも言われていて、実際1989年の税制改正後、欧州産の酒類は日本に大量に輸入されるようになったのです。



またこの時期から、生産国と日本の間のウイスキートレンドというのは全面的に同期されるようになりました。

それまでブレンデッドウイスキーが主流だった時代には、「原酒」と呼ばれて珍重されたシングルモルトウイスキーが、蒸留所元詰のオフィシャルボトル、蒸留所から独自に樽を仕入れて詰められたボトラーズのボトルなど、豊富なラインナップをして、それらが専門店だけにではなく、街の酒屋さんにも並ぶようになったのです。

当時のバブル景気も、購入消費に拍車をかけ、普及に至る時間短縮に大きく加担したものと思われます。


およそ日本へ輸入される酒類に関して、ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒に限らず、ワインやビールも含め、海外産の酒類が「普及レベル」に至ったというのはその頃からの話で、日本においてはせいぜい20数年程度の歴史でしかありません



逆に言うと1989年以前、余程海外に出向いて飲みまくったとか、特殊な環境にあった方でなければ、いくらお金があっても、そもそも代理店を経由する以外に日本国内向けの流通が成立しておらず、プロでも素人でも、今ほど広い範囲の蒸留所、ブレンデッドブランド、ボトルラインナップを日本国内で飲むことは適いませんでした。


その後、大手酒店では(あえて正規代理店を通さない)並行輸入が始まり、インターネットの普及で個人輸入も定着するに至ります。



「今なら」歴代の名ボトル、伝説的な内容を誇るウイスキーを実際に飲むチャンスが、まだあると思います。

世界的なウイスキー人口の増加で、新規リリースに関しては、価格は高騰する一方です。2000年当時から比較すると、人気のある蒸留所では、特定のヴィンテージが10年で10倍に跳ね上がっています。

特定有限の資源に向けて需要が高まれば、価格高騰は市場の理でありますが、「今なら」ギリギリ、従来リリース品は発売当時の価格に基づいて、値付けがされている部分がありますので、その恩恵を享受することが出来ます。



私の持論としては、ウイスキーのアドバンテージは、発売時期を問わず、新しくても従来品でも、中身が優れているのかどうかで、今飲むボトルの選択をできることにあると思っています。

ベタな例えで言えば、王・長嶋の黄金期チームと現行のチームを比較して、戦わせることもできます。アントニオ猪木vsヒクソン・グレイシーでも、ペレ vs メッシでも、物さえあれば、なんでも可能です。

瓶内変化もあるので、もちろん瓶詰め直後と全く同じではないわけですが、場合によっては、瓶詰め直後よりも魅力が増していることも多々あります(劣化してしまうこともあります)。

このあたりもリリース直後に開栓するのではなく、敢えて寝かせて、アルコールの分離感を抑えたり、円熟味(角の丸さ)を引き出す、私たちは「盆栽」と呼んでいる方法についても、事前にどのようなスペックを持つボトルであれば盆栽向きか、それはどのぐらいの期間、どのような環境で行うのが理想的なのかについても解説させていただきたいと思います。


先述のボトルキープ・スタイルでもそうですが、気に入った銘柄が出来たら、同種同類のボトルにとことん向き合う飲み方というのもあると思います。

他方さまざまな蒸留所、樽質、ビンテージ、熟成年数といったスペックともども、飲んで感覚する「香味の幅、違い」に注目する楽しさもあります。

ここ10年程度のシングルカスク人気を見ても、美味しいとなれば、発売された年代を問わず、探究心を持ってボトルを求め歩くというのが、今現在のウイスキーを楽しむスタイルとして定着してきたと思います。



ウイスキーも農作物であるばかりでなく、好きになればなるほど、音楽や映画などと同じく、嗜好的・官能的な文化産品だと認めたくなるわけですが、幸か不幸かその「量」には限りがあり、コピーすることができません。

これまで、何回、今この状態のボトルをコピーして、たくさんの人に飲んでもらいたいと思ったことか。。。残念ながら、ほどなく限りあるボトルは尽きてしまいます

実物をたびたび、見直し、味わいなおすことが適わないなら、なおさら大事になるのが飲んだ時の感想・記憶です。またそれを複数人で言い交すことで、自分ひとりでは曖昧だった、感じ取ることができなかった要素まで味わい、認識し尽くすことが可能になります。


お酒を楽しむ方法として、一つ間違いないことは、複数人であらゆる感覚・感想・感情を分かち合うことだと思います。

一人で悟りを開ける世界でもなければ、そもそも人間は内容成分の検出測定装置ではありませんから、正確性というのは、あくまで自分の感覚したことを、ありのまま記憶すること、言葉にして分かち合うことでしか成り立ちません。

本書では、「記憶しやすく、他者にも伝わりやすい」テイスティングの方法論を確立させること、また実行するにあたって、そのコツのような部分も解説できればと思っております。

長丁場になると思いますが、ぜひよろしくお付き合いください。