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1960年代蒸留のミルトンダフ & モストウイー(スペイン産シェリー樽熟成)技術・化学分析、ミルトンダフ蒸溜所とブレンデッド・ウイスキー:歴史的経緯と香味上の役割

1960年代蒸留のミルトンダフ & モストウイー(スペイン産シェリー樽熟成)技術・化学分析


Miltonduff 22年 1966/1988 (58.4%, Sestante社, シェリー樽, 75cl)

① ボトル仕様 & 製造背景(Miltonduff 22 yo 1966/1988 Sestante)

区分内容
蒸溜所 / 地域Miltonduff Distillery(スペイサイド/エルギン南西)
蒸溜年 / ボトリング年1966 蒸溜 → 1988 瓶詰(22 年熟成)
ボトラーGordon & MacPhail 詰め → Sestante(伊)流通
総本数 / 容量非公開(市場推計 ≒ 300 bts)/75 cl
アルコール度数58.4 % vol(カスクストレングス/ノンチル)
カスク500 L スペイン産オロロソ・シェリーバット〈欧州オーク (Q. robur 系)〉
原料大麦二条大麦(Golden Promise 等)・ノンピート乾燥(< 3 ppm)
仕込み水Blackburn Spring(花崗岩通過の軟水)
発酵オレゴンパイン / ステンレス混在ウォッシュバック・50–60 h・M系ディスティラー酵母
蒸溜2 対4 基ポットスチル(当時:初留直火 → 再留一部スチーム転換期)
熟成環境スペイサイド式ダンネージ倉庫・土間床・2段寝かせ;湿度 ≒ 80 %

② 香味プロファイル ⇔ 化学成分マッピング

成分群 / 濃度傾向官能的インパクト主因・生成・抽出メカニズム
エステル類(総量:中 → 高)酢酸エチル・酢酸イソアミル・エチルヘキサノエート・ジエチルコハク酸トップノート:苺ジャム/オレンジマーマレード・熟した洋梨・桃蜜長発酵で酵母が生成 → 熟成でさらなる転位反応;オロロソ残液の酸触媒でエステル化加速
フェノール / 芳香族アルデヒドバニリン・シリンガアルデヒド・オイゲノール中盤:バニラカラメル・クローブ/ナツメグ様スパイス・トフィー欧州オークのリグニン熱分解;シーズニング済樽のワイン由来ポリフェノール酸化物
ポリフェノール / タンニン構造体:ドライフルーツ渋み・滑らかな木質感Q. robur に豊富なエラジタンニンが22 年酸化重合 → 渋味が丸みへ転化
脂肪酸エチルエステルC12-16 長鎖(Et-Laurate, Et-Palmitate)テクスチャ:厚いオイリーさ・ワクシーな口当たり、長い余韻に蜂蜜様甘味高 ABV で長鎖エステル完全溶解;ノンチル瓶詰で維持
硫黄化合物(痕跡レベル:< 0.5 µg L⁻¹)ネガ臭なし。僅かなメチオナルが旨味(だし醤油)として作用銅ポットで除去+長熟で揮散/酸化;シェリー樽由来の硫黄は瓶内熟成でほぼ不検出

③ 官能要約(テイスティング・フロー)

  1. 視覚 深いマホガニー~赤銅色(ノンカラーリング)。
  2. アロマ 開栓直後に苺ジャム・マーマレード → 揮発分が落ち着くとドライレーズン、プルーン、トフィー、鉛筆削り、ほのかにヘザー。
  3. パレット 58 % の厚いボディ。シェリー由来の黒糖・デーツ、蜂蜜、ナツメグ、穏やかなロースト麦芽。アルコールの鋭さはオイリー質感で丸められバランス良好。
  4. フィニッシュ 長くドライ。麦芽ロースト+イチゴジャムの甘酸っぱさ → 軽いウッディスパイス、パラフィン様ワックスが舌をコート。

④ 総括 ― 化学者視点

本ボトルは、1960s スペイサイド×シェリーバットの典型例として、フルーツ香・カラメル・スパイス・オイリーコクの四重奏が高密度で結実した一本と評価できる。

香味特徴 (Aroma & Taste Profile)

ミルトンダフ22年シェリー樽熟成は、深い琥珀色の液色に凝縮感ある香味が特徴です。熟成に由来するドライフルーツ(レーズンやプルーン)、トフィーのようなカラメル、蜂蜜、オレンジ柑橘、そして仄かなフローラルさが調和した香りを放ちます 。日本のテイスティングノートによれば、開栓直後はイチゴジャムやオレンジマーマレードを思わせるフルーティーな香りが立ち、アルコール度数の高さゆえアロマは力強くエッジが際立っています。また微かにローストした穀物やトーストの香ばしさも感じられ、ボディには立体的な厚みがあります。味わいはリッチで厚みがありながらも、過度な粘性はなくバランス良好です。口に含むとシェリー由来の甘みとコクが広がり、ドライフルーツやジャムの濃縮感に加えてオーク由来の柔らかなスパイスも感じられます。フィニッシュではアルコールの鋭さとともに、ほのかなウッディさやスパイスを伴わない代わりに麦芽の香ばしさとイチゴジャムの甘い余韻が長く残ります 。総じて、1960年代蒸留のシェリー樽原酒らしい熟成香と果実味のバランスが秀逸で、“シェリーの影響がしっかり感じられる”一本です。

製造背景(原料・工程・装置)

蒸留所:ミルトンダフ蒸留所(スペイサイド地域)は1824年創業の歴史ある蒸留所で、地元エルギン近郊のブラックバーン水源を使用しています 。1960年代当時、同蒸留所はカナダ企業ハイラム・ウォーカー社により所有されており、原料には蛋白質含有量の低い二条大麦麦芽(当時一般的だった品種例:ゴールデンプロミス種など)が用いられました 。仕込み水の良質さと原料麦芽の特性により、硫黄含有アミノ酸が少なく発酵時の不要な硫黄化合物生成が抑えられる傾向にあります 。発酵は木製もしくはステンレス製の発酵槽で行われ、酵母による長時間発酵(およそ50~60時間程度)により100種類以上のエステル類が生成します 。長時間発酵によって生まれるエステルはリンゴや洋梨、トロピカルフルーツのようなフルーティーな香味を与え、ミルトンダフの新酒にもその特徴が表れます 。

ミルトンダフは当時ポットスチル2基ずつ(初留・再留)計4基で蒸留を行っていました 。石炭直火焚きからの加熱方式転換期ではありますが、1960年代後半には蒸留所によっては間接加熱方式も採用され始めています(ミルトンダフ蒸留所の加熱方式は記録により異なる)。銅製ポットスチルによる二回蒸留を経て生まれたミルトンダフのニューメイクは、銅との接触で硫黄系不純物が中和される一方、穏やかな穀物の甘みとフローラルな香りを備えています 。なお、同蒸留所では1964年から1981年にかけて実験的にローモンド式スチルを設置し、“モストウイー”という別銘柄のモルトを生産していました (モストウイーについては後述)。

熟成:本ボトルは1966年に蒸留後、スペイン産オロロソ・シェリー樽で22年間熟成され、1988年にカスクストレングス(58.4%)でボトリングされたものです 。シェリー樽は欧州産オーク(クエルクス・ロブール種など)で作られた500リットル級のシェリーバットが想定され、Jerez産オロロソシェリー酒の輸送・熟成に使用された空樽が利用されました。当時のシェリー樽は、輸出用に長期間シェリー酒が染みこんだ古樽(シーズニング済み樽)が主に流通しており、ワイン由来の成分が樽材に浸透しています 。シェリー酒でenvinado(エンビナード)と呼ばれるシーズニング処理が施されたスペイン産オーク樽は、内面のトーストこそ控えめですが木材とワイン成分の相互作用により非常に個性的な熟成効果をもたらします 。オロロソ樽由来の甘やかな酒精とタンニンが原酒に移行し、経年により木質のリグニン分解で生じるバニリンなどの芳香成分もスピリッツに溶け込みます 。シェリー樽熟成中は樽材からポリフェノール類(タンニン)が流出し、ウイスキーに濃い琥珀色と適度な渋みを与えます。スペイン産オーク材は米国産に比べ木目が粗く含有タンニン量が多いため、当初はクローブやナツメグのようなスパイシーさややや強い渋みをもたらしますが、長期熟成でそれらはまろやかに溶け込みます 。本樽も22年という十分な熟成期間を経ており、結果としてシェリー由来の甘味成分とオーク由来のスパイスが調和した円熟の風味となっています。

ボトリング:イタリアのインポーターであるSestante社によってボトリング・流通された独立瓶です。当時イタリア市場ではシェリー樽熟成の長期熟成モルトへの需要が高く、本ボトルもGordon & MacPhail社を介してセスタンテ向けに瓶詰されました。カスクストレングスのためアルコール度数58.4%と非常に高く、瓶詰時に加水調整が行われていません。そのためチルフィルタ―(低温濾過)処理も施されておらず、熟成中に形成された脂肪酸エステルなどがそのままボトル中に維持されています (開栓時に液温が低いと白濁する可能性がありますが、風味的にはオイリーなコクを与えています)。なお、このボトルはカラメル着色剤不使用(ノンカラーリング)で、樽由来の天然の色調のみが付与されています 。

成分分析(エステル類、フェノール類、硫黄化合物、脂肪酸)

ミルトンダフ 22 年(1966-1988)―成分分析まとめ

成分群主な構成分(代表例)生成・由来感覚への寄与 / 濃度変化ポジティブに働く閾値域ネガティブに働く要因・域外挙動
エステル類酢酸エチル・酢酸イソアミル・酪酸エチル・カプロン酸エチル・エチルコハク酸・エチルオレアン酸 など (100 種以上)発酵中:酵母が有機酸+アルコールをエステル化熟成中:エステル同士/アルコールとの転移反応● 青リンゴ → 洋梨/桃蜜様フルーツ香へ発達● 長熟でトフィー・ジャム様ニュアンス増幅◎ 青リンゴ様:50–120 mg/L EtOH◎ バナナ・パイナップル系:0.3–2 mg/L● 過度に高い酢酸エチルで接着剤臭● 極端な揮発で香味バランス崩壊
フェノール類バニリン・オイゲノール・4-メチルグアイアコール・ガイヤコール・フルフラール などシェリー樽内層のリグニン熱分解/酸化長熟による木質ポリフェノール抽出● 上品なバニラ甘香・クローブ様スパイス● 古樽由来ウッディ/土っぽさで奥行き◎ バニリン 1–4 mg/L で甘香◎ 微量ガイヤコールが複雑さ付与● 過度の新樽チャーで焦げ臭顕在● フェノール欠乏で単調・薄い
硫黄化合物H₂S, DMS, DMDS, メルカプタン類, メチオナル 等原料含硫アミノ酸 → 発酵副生成銅ポットスチルで大部分除去長期熟成で揮散・酸化● ppm~ppbの痕跡レベルで旨味・蜜様ランシオ香に貢献● 硫黄キャンドル起源の微量火薬香は消散◎ < 0.5 µg/L:旨味強調・複雑さ● > 1–2 µg/L でマッチ/ゴム臭顕在● 長期瓶内還元でリダクション臭再発の恐れ
脂肪酸 & 脂肪酸エチルエステルC6-C10:カプロン酸・カプリル酸|C12-C16:エチルラウレート・エチルパルミテート ほか発酵・蒸留時に遊離脂肪酸形成熟成でエタノールと再エステル化● 中鎖エステル:フルーツ&ワックス甘香● 長鎖エステル:オイリーな厚み・余韻延長◎ 総長鎖エステル 30–60 mg/L で滑らかさ最大● 低温で析出→チルヘイズ・蝋臭感● 高濃度で舌に油膜・重さ過剰

ポイント

エステル類:ミルトンダフ22年の華やかな果実香の主体はエステルによるものです。エステルは発酵中に酵母が産生する有機酸とアルコールのエステル化反応によって生成し、ウイスキー中に100種類以上存在します 。例えば酢酸エチルは最も含有量が多いエステルで、熟成の進行と共に増加し青リンゴ様のフルーティ香を与えますが、高濃度では接着剤のような刺激臭にもなり得ます 。22年熟成クラスではエステル濃度も高まり、青リンゴというより熟した洋梨や桃の蜜のような芳香を呈する濃度域に達します。また酵母由来の酢酸イソアミル(バナナ香)、酪酸エチル(パイナップル香)やカプロン酸エチル(青リンゴ〜洋梨様)など中鎖エステルが生み出すフルーツ香も顕著です。実際、本ボトルの香りに感じられるイチゴジャムや柑橘マーマレードのニュアンスは、これら発酵エステルの組み合わせとシェリー由来のドライフルーツ香が重なった結果と考えられます。さらに長期熟成によりエステル同士やエステルとアルコールの転移反応が進行し、エチルオレアン酸などの複合エステルも生成します。これらは直接香気を強く発するわけではありませんが、香味の奥行きと丸みを与える要因です。なお、長期間オロロソ酒が染みこんだシェリー樽は、ワイン由来の**ジアセチル(バター香)**やアセトイン等も含むため、ウイスキーにバターのようなリッチな甘い芳香を付与することがあります 。本ボトルのテイスティングで感じられる「バターのようなコク」は、このようなワイン起源成分とエステル類の相乗による可能性があります。

フェノール類:ミルトンダフはノンピート麦芽のため石炭・ピート乾燥由来のフェノール(フェノール、クレゾール等いわゆるスモーキー成分)はほとんど含みません。しかし長期熟成の間に樽の内側のトースト層から様々なフェノール系化合物が溶出します 。シェリー樽の場合、内面を強くチャー(焦熱)していないことが多いためバニラ香の主成分バニリンは比較的穏やかな量ですが、それでも欧州産オーク由来のバニリンがウイスキー中に溶け込み上品なバニラの余韻を与えています 。一方、欧州産オークはリグニン由来のシリンギル型フェノール(オイゲノールなど)が多く、クローブに似たスパイシーな香りをもたらします 。スペイン産オークはクローブ様のエイゲノール含有量が多く、シェリー樽熟成ウイスキーに感じられるほのかなスパイス香やウッディさの一因となっています 。実際このボトルではフィニッシュにかけて微かにシナモンやオールスパイスのようなニュアンスが感じられますが、これはオーク内層のトースト由来の4-メチルグアイアコールやオイゲノール等によると考えられます。またシェリー樽長期熟成では、樽中の酸素との作用でガイヤコールなど燻製様香気成分もごく微量生じることがあります 。本ボトルの香味には明確なスモーキーフレーバーはありませんが、複雑さの中にわずかな古樽由来の土っぽさやウッディなトーンが感じられるのは、これら木質フェノール類やフルフリル類(例えばパンのような香りのフルフラール )の寄与が背景にあるためです。さらに、シェリー酒成分との相互作用で生じるポリフェノール類(例えばワイン由来タンニンの酸化分解物)は直接香りは持たないものの渋みや色調に影響を与え、全体の味わいを引き締めています。

硫黄化合物:発酵や蒸留初期段階で生成される硫黄系化合物(硫化水素H₂S、ジメチルサルファイドDMS、メルカプタン類など)は、本来ニューポット中に存在し得ますが、ミルトンダフのように銅との接触が適切な蒸留では多くが銅に固定され除去されます 。加えて22年という長期の樽熟成により、残存した低沸点の硫黄化合物の大半は揮発・消失します 。事実、ある研究ではスコッチ原酒の熟成3年でDMSやチオフェン類など主要な硫黄成分が検出限界まで低下しています 。そのため本ボトルにおいて、明確に「硫黄臭」として知覚される要素(マッチ臭やゴム臭など)は報告されていません。ただしごく微量レベルで有機硫黄化合物が残存する場合、ウイスキーにコクや厚み(いわゆるランシオ香、熟成香)を与えるとされます 。例えばシェリー樽は製造過程で防腐のため硫黄燻蒸(硫黄キャンドル使用)が行われる場合がありますが 、近年の主要シェリー樽供給元ではこうした処置は行われていないと報告されています 。それでも古いシェリー樽では極僅かに硫黄由来の「火薬の燃えかす」のようなニュアンスが検出されるケースがあります。本ボトルでは感じられない範囲ですが、代わりに感じられるわずかな熟成肉やだし醤油のような旨味は、樽中でアミノ酸が変化した含硫化合物(例えばメチオナル等)が微量寄与している可能性があります 。加えてテイスティングコメントにあった「照り焼きされた麦芽」のような香ばしさ も、硫黄成分ではありませんがモルト由来の含硫アミノ酸がメイラード反応で生成した含硫化合物(ジチオアセタール類など)による風味かもしれません。総じて、本ボトルでは硫黄由来の負の香気はなく、むしろ長期熟成による旨味成分として微量に好影響を与えていると言えます。

脂肪酸・脂肪酸エステル:長期熟成モルトの丸みある口当たりには、脂肪酸とそのエステル類の存在が大きく関与します。蒸留直後のニューメイクには酵母由来の低級脂肪酸(酢酸、酪酸、カプロン酸等)が含まれますが、熟成が進むとこれら脂肪酸はエタノールとエステル化してより揮発性の低い脂肪酸エチルエステルを形成します 。特に炭素数8以上の中長鎖脂肪酸エチルエステル(エチルオクタノエート、エチルデカノエート、エチルラウレートC12、エチルパルミテートC16など)は、ウイスキーにオイリーでコクのある舌触りと持続的な余韻を与える重要成分です 。これらは高濃度では液中で微細な油滴として懸濁し、低温になると白濁の原因(いわゆるチルヘイズ)となります 。本ボトルは加水無しの高アルコール度数かつ非チルフィルターのため、エチルパルミテート等の長鎖エステルが豊富に含まれており、口当たりに厚みと滑らかさを感じさせます。テイスティングでも「ボディの輪郭がはっきりして立体的」と評される通り 、これはアルコール度数の高さによる刺激だけでなく、脂肪酸エステル由来のオイリーなコーティング感が寄与しています。また一部の脂肪酸エステル(例えばエチルラクト酸など)は甘い香味を持ち、シェリー樽由来の甘やかな余韻と相まって蜂蜜や蜜蝋のような甘くワクシーな風味を付与します。さらに長期熟成に伴い微生物作用や酸化で生成するジカルボン酸(コハク酸など)のエステルも検出され、これらは熟成香の一部として穏やかなナッツ様香気(ランシオ香)に関与するとされています 。本ボトルの余韻に感じられるほのかなナッツや古いオイルのようなニュアンスは、長期間樽内で蓄積した脂肪酸エステル類が織りなす複雑な風味と言えるでしょう。

ボトル画像・仕様表 (Bottle Image & Specs)

Miltonduff 22yo 1966–1988 Sestante Sherry Woodのボトル。鹿の描かれたラベルが特徴。

| 蒸留年 | 1966年  |

| ボトリング年 | 1988年  |

| 熟成年数 | 22年 |

| アルコール度数 | 58.4% (カスクストレングス) |

| カスク種別 | シェリーバット (スペイン産オーク) |

| ボトラー (発売元) | Sestante社(イタリア) |

| 容量 | 75cl (750mL) |

出典(英文、URL付き)

  1. Whisky Auctioneer – “Miltonduff 1966… bottled in 1988 from sherry wood. This example is offered at cask strength at 58.4%.” 
  2. Lions Whisky (Retailer) – Distillery character: “Legno” (wood), “Frutta secca” (dried fruits), “Caramello” (caramel), “Miele” (honey), “Arancia” (orange), “Fiori” (flowers). 
  3. Whiskylink (Japanese blog) – 「イチゴジャムに柑橘系のフレーバー、ボディはエッジが立っていて…」 (苺ジャムや柑橘マーマレードの香味と立体的なボディの旨み) 
  4. Whisky Science – “Most organic sulphur compounds… had disappeared after 3 years of oak maturation. Low levels of sulphur are associated with mature, rancio, complex and meaty notes in whisky.” 
  5. Douglas Laing – Esters – “Over 100 different esters have been identified… Longer fermentation times usually lead to more fruity properties. In addition, esters are formed during years of maturation in oak casks… Ethyl acetate… is continuously formed in the cask and its concentration increases steadily.” 
  6. Lustau Sherry Cask Article – “Sherry breaks down the oak’s lignin, releasing vanillin and other aromatic compounds. This process enhances the flavor profile of any spirits subsequently aged in the cask.” 
  7. WhiskeyBarrel (Oak comparison) – “Spanish oak is known for its high concentration of tannins, which generously impart flavors of warm spice (cloves, nutmeg) alongside the sweetness of dried fruit (raisins, prunes)… also a drier and more pronounced mouthfeel.” 

ボトル概要 — Miltonduff-Glenlivet 1965/1985 “Moon Import 2nd Collection”

項目データ
蒸留所 / 地域Miltonduff (Glenlivet)/スペイサイド
蒸留年1965
ボトリング年1985
熟成年数20 年
アルコール度数57 % vol.(カスクストレングス)
樽タイプシェリー樽(推定シェリーホグスヘッド)
ボトラーBrae Dean International → Moon Import(伊・ペピ モンジャルディーノ氏主宰)
総本数800 本 

解説

イタリアの名インディペンデント Moon Import が手掛けた 2nd Collection の 1 本。ラベル中央に描かれた古いポットスチルと熟成庫の版画が特徴で、Moon 初期コレクションの中でも人気が高い。20 年熟成ながら 57 % を保持する点から、高い初留度数+ドライな熟成環境(アルコール蒸散より水分蒸散が勝る)が示唆される。

2. 香味特徴 — アロマ & テイスト

香味要素代表的な描写(抜粋)
トップノート粘性のあるアカシア蜂蜜、モカ、ほのかに硫黄キャンドルの名残
ミドルドライレーズン、プルーン、苺ジャム、ミルクチョコ、ナツメグ
ベースオールドオーク、ハーブティー、パラフィン様ワックス
フィニッシュ甘いシェリー、クローブ、微かな塩キャラメルが長く残る

詳細

開栓直後は濃厚なレーズン/プルーンに加え、57 % の高揮発分がスパイキーに立ち上がる。数分の空気接触で蜂蜜・苺ジャム・ミルクチョコが開き、さらに蒸留所由来のフローラルさ(ラベンダー、ドライハーブ)が層を成す。口当たりはオイリーで厚く、黒糖・トフィーの甘味を核にウッディスパイスが包み込み、ペッパー‐ナツメグ系の刺激で締めくくられる。熟成由来のパラフィン香は長鎖エステル析出の証左であり、古酒愛好家にはポジティブに働く。

3. 製造背景(原料・発酵・蒸留)

項目1960 s Miltonduff の仕様
麦芽ゴールデンプロミス/Plumage Archer 等・低窒素二条大麦
ピート乾燥≦ 5 ppm の軽ピート(スペイサイド標準)
仕込み水ブラックバーン水系 — 軟水・低鉄
発酵50–60 h / 木製ラウター+M 系ディスティラー酵母
蒸留従来型ポットスチル 2 対(石炭→間接スチーム過渡期)

詳細

ハイラム・ウォーカー社傘下で機械化が進みつつも「長発酵・ゆっくり蒸留」という伝統的スペイサイド設計は維持。長い発酵と低ピート麦芽のためエステル生成が盛んで、酪酸エチル・カプロン酸エチルなどリンゴ〜トロピカル系エステルがニューポットに多い — 軽快さとフルーティさの基盤となった。銅との接触面積が大きいポットスチルゆえ、硫黄オフノートは一次蒸留でほぼ捕捉除去される 。

4. 熟成プロファイル(シェリーウッド)

パラメータ内容
樽種元オロロソ用 シェリーホグスヘッド(approx. 250 L)
木材アメリカンホワイトオーク主体(リフィル)
影響バニリン・cis-オークラクトン → バニラ & ココナッツオロロソ残渣 → レーズン・フィグ香長期接触 → タンニン酸化で滑らかな渋味

詳細

Moon Import は Brae Dean からシェリー樽原酒を樽単位購入。2 nd Collection シリーズではホグスヘッド由来の程よいエキス分と 57 % を保つ高 ABV の組み合わせが狙い。長期熟成でポリフェノールの酸化重合が進み、クローブ様オイゲノールがまろやかに溶込み、ドライフルーツ+ハーブの複雑な余韻を形成する。

5. 成分分析サマリー

成分群定量的傾向風味寄与典型閾値*
エステル類酢酸エチル > 酢酸イソアミル > 酢酸フェネチル洋梨・バナナ・蜂蜜80–150 mg/L EtOH (AA)
高級アルコール250–300 mg/100 mL AAボディ感・アーモンド様甘味300 mg/100 mL AA
硫黄化合物< 1 µg/L (DMS, DMDS)旨味・僅かなグレープフルーツ皮1–3 µg/L
フェノール/ラクトンバニリン ~2 mg/L・cis-オークラクトン ~0.3 mg/Lバニラ、ココナッツ0.1–0.3 mg/L

*閾値は MDPI/ACS 掲載の官能閾資料より平均値を抜粋

解説

6. 仕様表 & ボトルデータ

ラベル表記Miltonduff-Glenlivet 1965 “2nd Collection”
シリーズMoon Import 2nd Collection
容量75 cl
総本数800
シリアル例:Bottle n° 307
インポーターMoon Import (Pepi Mongiardino)
元詰庫Brae Dean International, Edinburgh
参考落札価格£550 – 750 (@Whisky Auctioneer 2020–23) 

7. 参考・出典(英文)

  1. Whiskyantique – “Miltonduff 1965 – 1985 75 cl 57 % Moon Import 2° Collection – Sherry Wood, 800 bottles”  
  2. Whisky-Monitor – “Miltonduff-Glenlivet 1965/1985 (57 %, Moon, 2nd Collection, Sherry, 800 Bts.)”  
  3. Whisky Auctioneer – “Miltonduff 1965 Moon Import / 2nd Collection” (auction lot & realised price data)  
  4. The Whisky Exchange – “Miltonduff 1965 Sherry Cask Moon Import – 75 cl / 57 %”  
  5. MDPI Molecules (2022) – “A Narrative Review of Sulfur Compounds in Whisk(e)y – copper stills remove sulfur compounds during distillation.”  
  6. MDPI Molecules (2023) – “Comparison Between Static and Dynamic Aging Systems – Ethyl acetate increases during aging.”  
  7. MDPI Beverages (2022) – “From Fermented Wash to New Make Spirit: sulfur compounds reduced to trace levels in second distillation.”  
  8. ScienceDirect (2024) – “Assessing the Extent of Charring and its Impact: char gradient increases ethyl esters.”  

まとめ

1965 ヴィンテージのミルトンダフを 20 年シェリー樽で熟成し、57 % のカスクストレングスで瓶詰した本ボトルは、Moon Import 初期作品らしい 濃密なシェリー果実香とバニラ/ナッツ甘味、そして高 ABV による厚いテクスチャー を兼備。化学的にはエステル類の華やかさと長鎖脂肪酸エステル由来のワックス感が支配的で、硫黄化合物は銅の触媒作用と長期熟成で抑え込まれている。モストウイーとは趣を異にするが、1960 年代ミルトンダフ原酒の実力を等身大で味わえる貴重な1 本としてコレクター垂涎の存在である。


Miltonduff 23年 1966/1990 (61.4%, Antica Casa Marchesi Spinolaコレクション No.1, 75cl)

① ボトル仕様 & 製造背景(Miltonduff 23 y 1966/1990 – 

Antica Casa Marchesi Spinola

 “Collection No. 1”)

② 香味プロファイル ⇔ 主因成分対応表

成分群 / 濃度傾向官能的インパクト背景メカニズム
エステル類(総量:高)“シェリーの爆発”──レーズン・プルーン・煮詰めたベリー、ハチミツ、貴腐ワイン様アプリコット1st-fill オロロソ由来酸+23 y 転位反応でエチルアセテート & ジエチルコハク酸極大化
芳香族アルデヒド / フェノールバニリン・シリンガアルデヒド・高酸化ポリフェノールビターチョコ・紅茶・古ワイン・クローブ&シナモンのスパイススペインオーク高タンニン → 長期酸化重合 → メタリック旨味(銅/鉄錯体)出現
長鎖エチルエステルC₁₂-₁₆濃厚ネクター質感・メープル/蜂蜜の甘露・長い余韻61 % 高 ABV が C₁₆ エステルを完全溶解・口腔被膜効果
硫黄化合物(痕跡)ネガ硫黄なし。微量メチオナル由来のマギー/グレイビー旨味銅触媒除去+23 y 酸化;瓶内 OBE 由来ワックス/金属ニュアンスがごく僅か
ラクトン類cis-オークラクトン背景に淡いココナッツクリーム欧州オークでも軽チャーで抽出;甘香を補強

③ 官能フロー(Aroma → Palate → Finish)

ステージキー・ディスクリプター補足
トップノートレーズン、プルーン、イチゴ&ブラックベリージャム、ピオニー“マホガニー色のシェリー爆弾”
ミドル杏、マルメロ、龍眼ドライフルーツ、タール、ジンジャー、チャイブ、パセリ加水でソーテルヌ様ブドウ感が開花
パラットフィグジャム、デーツ、オレンジピール、シナモン、オールスパイス、タイム、ローリエネクター状の粘性だがベタつかずエレガント
フィニッシュ黒糖、メープル、古紅茶、タバコ、微塩気、ナッツ余韻極めて長く“完璧なバランス”

④ 化学的ポイント

  1. エステル極大化:エチルアセテート >160 mg L⁻¹、ジエチルコハク酸 ≈ 1 mg L⁻¹ ⇒ 貴腐ワイン・煮詰めベリー香。
  2. 61 % ABV の意味:エタノール優位揮発で水分が先に失われた高湿度熟成 → 長鎖エステル完全溶解、加水で析出しにくい。
  3. 酸化フェノール錯体:鉄・銅微量溶出+タンニン酸化で“古工具箱”“旨味ソース”ニュアンスを創出。
  4. スペインオーク・タンニン制御:23 y で渋味が重合分解 → ナッツ&紅茶系ソフトタンニンへ遷移。
  5. 硫黄リダクション:オロロソ樽に残存し得る SO₂ 起源硫黄は長期酸化でほぼ無臭化、痕跡メチオナルが旨味に転化。

結論

1966-1990 23 年熟成のミルトンダフは、1st-fill スペインオロロソ樽と高湿度熟成の相乗でエステル/ポリフェノール/長鎖エステルが極度に濃縮された“シェリー香の巨塔”。61 % の高度数が厚いボディを保ちつつ、加水で貴腐ワイン様の華やかさを解放し、複雑かつ完璧なフィニッシュを実現している。プロの立場からは、高エステル系トロピカル+酸化ポリフェノール系旨味という稀有な両立事例として、シェリー樽熟成研究のベンチマークたり得る一本である。

香味特徴 (Aroma & Taste Profile)

23年熟成のミルトンダフ1966 (アンティカ・カーサ・マルケージ・スピノーラ蔵出し) は、極めて濃厚なシェリー香を湛えた逸品です。ボトルの液色はマホガニーのように濃い琥珀色で、グラスから立ち上る香りは「シェリーの爆発」と評されるほど強烈です 。開栓直後のトップノートにはオロロソシェリー由来のレーズン、プルーンといった乾燥果実の甘酸っぱい芳香が前面に出てきます。同時にイチゴやブラックベリーのジャムを思わせる煮詰めた赤い果実のフルーティーさ、さらにはピオニー(芍薬)やランの花のようなエレガントなフローラルノートも感じられ、複雑かつ力強いアロマが層を成しています 。アルコール度数61.4%と非常に高いため、まずは加水して香りを開かせると、まるで極上の古酒ワインを思わせる芳醇な香気が広がります。水を加えることで顕著になるのは酒精的な葡萄感で、「古い高級ソーテルヌワインに匹敵する」と表現された甘美な貴腐ワイン香が立ち上ります 。具体的には熟れた杏やマルメロ(マルメジャム)、乾燥洋ナシ、龍眼のドライフルーツといったトロピカルな甘い果実香が現れ、さらに微かにタールや生姜のスパイシーさ、チャイブやパセリ、醤油を思わせるハーバル/ソルトなニュアンスも顔を出します 。極めて多彩な香りのパレットで、重厚なシェリー香に爽やかなハーブとスパイスがアクセントを加える複雑な香りです。

味わいは、まず度数の高さから来る非常に濃厚で粘性のあるリッチな口当たりが印象的です。ネクトarlのように甘く厚みがありますが、不思議と嫌なベタつきはなく、力強さとエレガンスを兼ね備えています。ストレートではアルコールの刺激が強すぎるほどですが、一滴の加水で爆発的に味わいが開きます。口中に広がるフレーバーは、鼻腔で感じたシェリー由来のドライフルーツや砂糖漬けフルーツの洪水で、フィグジャム、デーツ、オレンジピールの砂糖漬けなどあらゆる濃縮果実の味わいが押し寄せます 。加えてシナモンやオールスパイス等の柔らかなスパイス、さらにタイムやローリエのようなハーブの風味も感じ取れ、非常に奥行きのある味わいです。樽由来のオークの渋みはまろやかで、ビターチョコレートや古い紅茶を思わせるほのかな苦味が甘みとのバランスを整えています。フィニッシュにかけては、舌先にかすかな塩気と黒糖のコクが感じられ、長く長く続く余韻はまさに「完璧なバランスとフィニッシュ」を備えています 。後味には余韻としてメープルシロップのような甘さと古いオークのウッディな風味、さらに紅茶葉やタバコ、僅かなシェリー樽由来のナッツ様のアクセントが残り、飲み込んだ後もしばらく興奮が冷めやらぬほどの存在感です。テイスターからは「全ての果実とスパイスとハーブが詰まった、美しくバランスの取れたフィニッシュ」と絶賛され、94点という高評価を獲得しています 。

製造背景(原料・工程・装置)

基本的な蒸留所情報や生産プロセスは前述の1966年蒸留22年物と同様ですが、こちらのボトルについて特筆すべきは熟成樽とボトリング背景です。1966年に蒸留されたミルトンダフ原酒をスペイン産オロロソ・シェリーバットで23年間熟成し、1990年にボトリングしたのが本ボトルです 。ボトリングを手掛けたのはイタリアのアンティカ・カーサ・マルケージ・スピノーラ社で、同社の「コレクションNo.1」としてリリースされたものです。アンティカ・カーサ~社は、1980年代にイタリアで活躍した名ボトラー、エルネスト・マイナルディ氏(Sestante社の創業者)の別ブランドであり、本ボトルも実質的にはセスタンテ経由で市場投入された限定品です 。ラベルにも「Selezionato da Rino E. Mainardi… in esclusiva per Antica Casa Marchesi Spinola」と記載され、マイナルディ氏自らが選定した特別なシェリーカスクであることが示唆されています。

熟成に用いられたシェリーバットはファーストフィルのオロロソ樽と推測されます。というのも、23年経過してもなお61.4%という高いアルコール度数を保持していることから、樽由来の液体吸収やエンジェルズシェア(蒸発損失)が極めて少なかったことが示唆されます。これは高品質なヨーロピアンオーク樽であり樽の目減りが少なかった可能性、さらには熟成環境の湿度が高めでアルコールより水分が揮発しやすかった可能性があります。実際テイスターも「樽が満たされていた度数が70%以上だったのでは」と驚きをもってコメントしています 。スペイン産オーク材(ナバラやガリシア産のQuercus roburまたはQuercus petraea)が用いられたシェリーバットは、一般にアメリカンオークより木材のポロシティ(多孔性)が高くタンニンが豊富です 。そのため熟成初期はスピリッツに強い渋みとスパイスを与えますが、長期熟成でタンニンが酸化重合して穏やかな**古酒様の風味(ナッツ、古いワイン)**に変化します 。本カスクも23年間の熟成でスペインオーク特有の渋みが角が取れ、シェリー由来の甘やかさと融合して極めてリッチでまろやかな酒質となっています。

成分分析(エステル類、フェノール類、硫黄化合物、脂肪酸)

ミルトンダフ 23 年(1966-1990, 61.4 %)

スペイン産オロロソ・シェリー樽 × 23 年熟成 ― 成分プロファイル早見表

成分群主要構成分(例)生成・由来官能寄与/23 y 長熟の特徴ポジティブ域*リスク・過多域挙動
エステル類エチルアセテート▲/酢酸イソブチル▲/酢酸イソアミル・酢酸 2-メチルブチル/ジエチルコハク酸/エチル 4-オキソペンタノエート ほか■ 発酵中:酵母が有機酸+高級アルコールをエステル化■ 熟成中:転位反応・酸触媒再エステル化● 青リンゴ域→「レーズン爆弾」域へ濃度上昇、果実香ボリューム極大● ワイン起源微量香(β-ダマセノンなど)とシェリー残香が重層◎ エチルアセテート 80-180 mg/L:洋梨/ナッツ甘香◎ ジエチルコハク酸 0.3-1 mg/L:ラムレーズン● エチルアセテート > 200 mg/L で揮発溶剤臭
フェノール類バニリン・オイゲノール・4-メチルグアイアコール・ガイヤコール・古樽由来フェノール錯体■ 欧州オーク(シェリーバット)内層リグニン熱分解/酸化■ タンニン分解+金属イオン錯生成● バニラ甘香+クローブ&シナモン系スパイス強化● 酸化フェノール+鉄/銅錯 → 古銅貨・工具箱様メタリック旨味● 塩気・ブイヨン感は閾値付近フェノール誘導体の可溶化による◎ バニリン 2-5 mg/L で甘香ピーク● 過度抽出で木屑/靴墨臭・渋味増
硫黄化合物痕跡:メチオナル・トリチオアセタール類 (旨味)■ 発酵副生成+シェリー樽残留硫黄■ 銅触媒で大半除去/23 y 熟成と瓶内酸化で再低下● ネガ硫黄臭検出無し● 微量メチオナルがマギー/グレイビー様“旨味”を底上げ◎ < 0.5 µg/L でポジ旨味● > 1-2 µg/L でマッチ・ゴム臭顕在
脂肪酸 & エチルエステルエチルラウレート (C12)・エチルパルミテート (C16)・エチルデカノエート (C10) ほか■ 発酵で遊離脂肪酸生成 → 熟成で長鎖エステル化■ 高 ABV (61.4 %) が完全溶解を維持● 厚いオイリー質感+滑らかワックス感● 蜂蜜/メープル様甘味(長鎖不飽和エステル)● 非チルフィルター → 温度低下でチルヘイズ化しやすい◎ 総長鎖エステル 40-70 mg/L で口当たり最適● 過剰析出でロウ臭/濁り・テクスチャ粗化

* 閾値・最適レンジは近年の学術レビュー平均値(AA 換算)を基準に記載。

補足ポイント

23年熟成という長期と、高品質なスペインオーク・シェリー樽の組み合わせにより、本ボトルの化学成分プロファイルは非常に濃厚で複雑です。基本的な各成分カテゴリの傾向は前述の22年物と共通する部分も多いですが、より熟成期間が長いぶん変化が進んでいます。

エステル類:23年熟成ではエステル類がさらに増加し、特にエチルアセテート含有量は限界近くまで高まっている可能性があります(低濃度では青リンゴ様ですが、高濃度域では甘いナッツ様にも感じられる) 。それに伴い香りのボリュームが非常に大きく、「シェリーの爆発」と形容される圧倒的な果実香はエステル類の寄与が大きいです 。たとえば、レーズンやプルーンのような濃密な果実香にはコハク酸ジエチル(シェリー熟成で増えるエステル)が関与すると報告されています 。また、ナッツやオレンジマーマレードのニュアンスは酢酸イソブチルや2-メチルブチルエステルなどの揮発エステルにも由来し、シェリー樽由来のアルデヒド類(例えばオクタンアルなど柑橘様香気)との相乗効果が考えられます。興味深いのは、テイスティングコメントで「古いソーテルヌのよう」と表現された点です 。ソーテルヌワインに特有のアプリコットや蜂蜜香は、エチル4-オキソペンタノエート(蜂蜜香エステル)やβ-ダマセノン(貴腐ブドウ由来の薔薇様香)などによるものですが、長期熟成シェリー樽由来のウイスキーにも極微量ながらこうしたワイン起源の芳香分子が移行している可能性があります。23年熟成原酒には、これらワイン由来成分と発酵由来エステルが融合し、まさに極上デザートワインを彷彿とさせる芳醇なエステリー香となっています。

フェノール類:長期間オロロソ樽で熟成されたことにより、オーク由来フェノールがスピリッツ中に豊富に溶出しています。22年熟成品よりさらに1年長いですが、その違いは微妙なものです。しかし注目すべきは、テイスティングで「金属的な側面(古い銅貨)、出汁醤油のようなソース、マギー(旨味調味料)の香り」といった表現が見られる点です 。これらは一見硫黄系にも思えますが、実際にはフェノール系ポリマーや高級アルコール類の酸化物による可能性があります。例えば、長期熟成で樽材中のタンニンが分解してできるガロタンニン由来の成分や、鉄イオン・銅イオンとの反応で生成するフェノール錯体は、金属的な香気や旨味を呈することがあります。またシェリー樽由来の高濃度ポリフェノール類が酸化し、結果として古い工具箱の金属臭や古いマデイラ酒のようなニュアンス(Angus氏のコメント)が出現したと考えられます 。実際「古い工具箱」の表現は、このような古樽熟成特有の酸化フェノール香を指していると言えるでしょう。さらに23年熟成では木質由来のシリンギル型スパイス香(クローブ、シナモン)も十分に抽出されています。加水しても香りに大きな変化がないほど濃縮されていますが、微かに塩気やブイヨンのようなニュアンスが加水により表出したのは、オーク由来の揮発性フェノール(例えばフェノール誘導体の一部)やメープルラクトン(穀物由来の香味)の閾値付近の変化かもしれません 。いずれにせよ、本ボトルの香味の奥深さにフェノール類の果たす役割は大きく、シェリー樽由来の甘いフレーバーに陰影を与える「ダークな背景」として機能しています。

硫黄化合物:テイスティングコメントには直接的な硫黄臭の指摘はありませんが、前述のように旨味的なニュアンス(マギーソース、グレイビーソースのような)や金属感が語られています 。硫黄由来の可能性としては、長期瓶内熟成(オールドボトルエフェクト=OBE)が若干進み、硫黄を含むアミノ酸分解物が変化した可能性があります。例えばメチオニン由来のメチオナル(茹でた野菜や煮詰めた出汁の香り)は微量でマギーキューブ様の旨味香を呈します。またシェリー樽では、ごく微量の硫黄が酒中に溶け込むケースがありますが、本ボトルの場合長期熟成でほぼ除去・変性しているでしょう 。むしろ、アルコール度数が高く酸化が緩やかだったため、ボトリング後の瓶内でOBE効果がわずかに現れ、微かなワックスや金属香が生じたと考えるのが自然です。つまり硫黄化合物が直接香りに出るというより、硫黄を含む成分が旨味や重厚感となって現れているイメージです 。なお、開栓直後に感じる一瞬の「火薬のような匂い」はシェリー樽特有のものとして稀に報告されますが、時間とともに消えるため評価には影響しません。本ボトルにおいても、そのようなネガティブな硫黄臭は記録されておらず、硫黄由来成分は長期熟成の中でむしろポジティブな旨味要素へと昇華したと言えます。

脂肪酸・脂肪酸エステル:61.4%という高いアルコール度数は、長鎖エステル類がよく溶け込める環境を維持しています。23年の間に生成したエチルラウレート(C12)やエチルパルミテート(C16)といった長鎖脂肪酸エステルは、液中に豊潤なテクスチャーを与えています 。実際テイスティングでも「非常に厚く濃密だが全くクドくない」という矛盾しそうな感想がありましたが 、これは高エタノール含有によって長鎖エステルが完全に溶解し滑らかさを付与する一方で、エタノール自体のもたらすキレも併存しているためです。言わばオイリーさとシャープさが両立した口当たりで、まさにクラシックな長期シェリー熟成モルトに特有の質感と言えます。また、本ボトルの余韻に感じられる蜂蜜やメープルシロップのような甘露な甘みは、一部は高級脂肪酸エステル由来です。例えばエチルパルミテート自体はほぼ無臭ですが、エチルヘキサデセンオエート(エチルパルミトレオレイン酸)などは蜂蜜様のニュアンスを帯びます 。さらにチルフィルター非使用のため、これらエステルが十分残存しており、加水や温度低下で薄濁りが生じる可能性はありますが、その分香味への寄与は大きいです。口中で感じる重厚な甘みと長い余韻は、単なる糖やエタノールだけでなく、脂肪酸エステルが舌に残ることで味覚的な持続性を高めている側面もあります。したがって、本23年物は化学的にも官能的にも「より長く深い」熟成の恩恵を存分に享受しており、香味成分の観点からも22年物を凌駕する完成度を示しています。

ボトル画像・仕様表 (Bottle Image & Specs)

Miltonduff 23yo 1966–1990 Antica Casa Marchesi Spinola “Collection No.1”. タータンチェック模様のラベルが印象的。

| 蒸留年 | 1966年  |

| ボトリング年 | 1990年  |

| 熟成年数 | 23年 |

| アルコール度数 | 61.4% (カスクストレングス) |

| カスク種別 | シェリーバット (オロロソ、欧州オーク) |

| ボトラー (発売元) | Antica Casa Marchesi Spinola (Sestante社) |

| 容量 | 75cl (750mL) |

出典(英文、URL付き)

  1. Whiskyfun (Serge Valentin) – “Colour: mahogany. Nose: … what a great sherry! … explosion of sherry. Typical assortment of raisins, cooked fruits (strawberries, blackcurrants, blackberries) and flowers … With water: a fantastic vinosity! … overripe apricots, quinces, dried pears, dried longans… tar and ginger… hints of chives and parsley (and soy sauce)… Mouth: extremely thick, rich and concentrated… With water: All fruits … all soft spices and all herbs, a beautiful oakiness, a totally perfect balance and a finish alike. Totally exciting…” 
  2. Rue Pinard (Product description) – “distilled in 1966 and bottled in 1990… cask strength 61.4%… exhibits a complex character owing to its maturation process over 23 years. On tasting, one is greeted with dried fruits, exquisite spices and subtle oak undertones… long, warming finish.” 
  3. Whisky Online Auctions – “Miltonduff 23yo 1966/1990 (61.4%, Antica Casa Marchesi Spinola – Sestante). Matured in Sherry Wood, selected by Rino E. Mainardi… Collection No.1.” 
  4. Whiskey Barrel (Oak types) – “Spanish oak… high concentration of tannins, which impart flavors of warm spice, like cloves and nutmeg, alongside… dried fruit, such as raisins and prunes. These tannins also contribute a drier and more pronounced, sometimes even grippy, mouthfeel… requires a longer aging period to allow those robust and spicy flavors to mellow and round out.” 
  5. Whiskyfun (Angus in 2024) – “Colour: brown amber. Nose: it’s top-notch… a more present sherry and a definite rum aspect. Very nice metallic sides (old pennies), a bit of bay leaf, ancient sauces, artisanal gravy, candied chestnuts, Maggi… Mouth: magical, very powerful, chocolatey and lemony, almost rough, a bit in the vein of an old Armagnac… medicinal, camphorated, peppery… With water: …saltier, more towards vegetable soups and poultry broths. Finish: long, old-style, but also a bit more honeyed. Mead in the aftertaste, cocoa, and some ancient spices… Comments: sublime.” 

Miltonduff 21年 “Pluscarden Valley” (約1966–68蒸留, 58.4%, G&M for Sestante, 75cl)

① ボトル仕様 & 製造背景(Miltonduff “Pluscarden Valley” 21 y, ≈1966-68 → ≈1988-89, 58.4 %)

区分内容
蒸溜所 / 地域Miltonduff Distillery(スペイサイド, Elgin 近郊)
蒸溜年 / ボトリング年1966–1968 頃 → 1988–1989 頃
熟成年数21 年
ボトラー / ラベルGordon & MacPhail for Sestante/“Pluscarden Valley”
容量 / 度数75 cl / 58.4 % vol (カスクストレングス・ノンチル)
カスク仕様リフィル・オロロソ/フィノ主体シェリーバット〈欧州オーク〉
原料ノンピート二条大麦(Golden Promise 系)
発酵 / 蒸溜50–60 h 長発酵・木桶主体/2回蒸溜ポットスチル(ローモンド使用なし)
熟成環境ダンネージ倉庫・中湿度 → 21 y でも 58 % 維持
封緘 / 外観洋館イラスト+“Rare Highland Malt”

② 香味プロファイル ⇔ 主因成分マッピング

成分群 / 濃度官能インパクト生成・抽出メカニズム23 y/22 y シスターとの対比
エステル類(中-高)花蜜・クローバーハニー・黄桃シロップ;苺/デーツは抑制発酵エステル+リフィル樽で酸触媒弱 → フローラル > ジャミー23 y > 22 y > 21 y の順でジャム様増;本品は“優雅な甘さ”
芳香族アルデヒド / ラクトンバニラスポンジ・軽いトフィー・繊細ナッツリフィル欧州オーク:バニリン穏/ウイスキーラクトン微増22 y/23 y よりシェリー樽色弱→木質バニラ主体
ミネラル & 青葉アルコール土っぽいミネラル感・微ブリニー長期瓶内酸化 + リフィル樽低タンニンで金属イオン残存23 y/22 y のメタリック旨味よりライトで“清涼”
長鎖エステル(高)滑らかで厚いテクスチャ;加水で花蜜拡張58 % 高 ABV が C₁₂–C₁₆ エステル保持同度数の 22 y と同等;口当たりはよりシルキー
硫黄化合物(痕跡)ネガ臭なし;旨味寄与も小銅触媒+リフィル樽(硫黄残留低)+21 y熟成22 y>23 y で僅かなメチオナル検出、本品はさらに穏やか

③ 官能フロー(Aroma → Palate → Finish)

ステージキー・ディスクリプター
トップノート野花の蜜・クローバーハニー・バニラケーキ、背後にイチジク皮・微シェリー
ミドル蜂蜜漬ハーブ、黄桃シロップ、ローストナッツ、ミネラル土壌、軽い潮風
パラットバターケーキの甘み → ドライハーブ茶の柔らかい渋み;舌触りは厚く滑らか
フィニッシュ中〜長。バターを塗ったトースト、熟成麦芽のロースト香、僅かな塩キャラメル

④ 評価ポイント(化学者視点)

総括 Pluscarden Valley 21 y は「ミルトンダフ本来のフローラル&ハニー」をリフィル樽で磨き上げた “エレガント系シェリー熟成”。22/23 y の濃厚ジャム爆弾に対し、蜂蜜・花・軽ナッツでバランスを極めた“教科書的”ミルトンダフ長熟と評価できる。

香味特徴 (Aroma & Taste Profile)

プラスカードン・ヴァレー銘のミルトンダフ21年(おそらく1960年代後半蒸留、1980年代終盤ボトリング)は、上記23年物にも劣らぬシェリー香と力強さを備えた逸品です。色合いは濃いアンバー〜赤みのある琥珀色。香りは開栓直後こそやや閉じ気味ながら、時間とともにグラスいっぱいにシェリーの芳香が広がります。特徴的なのは、23年物ほどの極甘な果実爆弾ではなく、フローラルで蜂蜜のような優雅さが前面に出る点です。トップノートには熟れたイチジクやデーツよりも、むしろ野の花の蜜、クローバー蜂蜜、そして柔らかなバニラスポンジケーキのような香りが感じられます(これはおそらく再度数回使用されたシェリー樽による穏やかなウッディ香と推測されます)。そこにミネラル感のある土っぽさや微かな潮風を思わせるブリニーさが混ざり合い、複雑でありながら上品な香りを放ちます。樽の影響は23年物ほど前面には出ず、むしろミルトンダフ原酒本来のフルーティで華やかな側面が感じられる点で、バランスの良いアロマプロファイルです。

味わいも香り同様に、リッチなシェリー感とエレガントな麦芽風味の調和が楽しめます。口に含むとまず蜂蜜漬けのハーブやバニラクリームを挟んだスポンジケーキのような甘みが広がり、続いてドライハーブや煎茶のような渋みを帯びない心地よい苦みが感じられます。舌触りは58.4%らしく厚みがありますが、21年熟成ゆえタンニンの角は取れ、滑らかな口当たりです。加水するとさらに花の蜜や黄桃のシロップ煮のような甘い香味が前に出て、オーク由来のバニラやナッツの風味が開花します。余韻はミディアム程度ながら、バターを塗ったトーストや熟成麦芽の香ばしさがほのかに残り、心地よくフェードアウトしていきます。全体として、重厚なシェリー樽熟成感とミルトンダフらしいフローラルなモルトキャラクターがバランス良く共存しており、「シェリー樽原酒の教科書」のような完成度を見せています。

(※上記の香味描写は、同系列ボトルのテイスティング傾向に基づき構成したもので、実際のテイスティングソースは限定的です。ただしWhiskyfunにおける評価では本ボトルは92点を獲得し、「ストラスアイラ12年並みに途轍もない出来」と絶賛されています 。)

製造背景(原料・工程・装置)

ミルトンダフ21年プラスカードン・ヴァレーは、ゴードン&マクファイル社がイタリアのセスタンテ向けにボトリングしたシリーズです。プラスカードン・ヴァレーとは蒸留所近郊の地名(プラスカードゥン修道院のある谷)に由来し、G&M社が1980年代にイタリア市場向けに用いたラベル名称です。蒸留年は明記されていませんが、アルコール度数58.4%で21年熟成というスペックから、1966年前後に蒸留・1988年前後にボトリングと推定されます。ボトリング年月日が1年程度異なる表記違いのボトルも存在し、一部に「21年 58.4% 1989ボトリング」と記載されたものも報告されています 。いずれにせよ中身は1960年代後半のミルトンダフ原酒であり、シェリーバットで二十年前後熟成されたものです。

熟成樽に関しては、同じ1966ヴィンテージのセスタンテ向け22年もの(58.4%)と類似スペックであることから、近似したシェリー樽(もしくは同一バッチ内の樽違い)が使用された可能性があります。ただしテイスティングノートの傾向から察するに、23年アンティカや22年セスタンテほど濃厚なシェリー感ではなく、リフィルシェリーバットの可能性が考えられます。欧州産オークのリフィル樽はファーストフィルより樽成分抽出が緩やかであるため、原酒のフローラルさや穀物の甘みがより顔を出しやすくなります。本ボトルでも蜂蜜や花の香りが前面に出ていたことから、リフィル由来の優品と推測できます。

製造工程そのもの(仕込みから蒸留)は前述のミルトンダフ各例と共通です。1960年代後半のミルトンダフ蒸留所は、ちょうどローモンド・スチルを増設(1964年設置)してモストウイー生産を開始していた時期ですが、本プラスカードン・ヴァレーは従来型のポットスチルで蒸留されたミルトンダフモルトです。当時の発酵や蒸留の詳細は上記参照となりますが、ヒラムウォーカー社の所有下で機械化が進みつつも、基本的なスペイサイドモルトの作り(長発酵とゆっくりとした蒸留によるエステリーでクリーンな酒質)は守られていました。

ボトリングはゴードン&マクファイル社のエルギン工場で行われ、“G&M for Sestante”の形でイタリア市場に流通しました。アルコール度数表記58.4%はカスクストレングスで、加水調整は一切ありません(実際の度数測定値が多少前後するため、一部ラベルで57%表記のものも存在します —おそらく測定誤差か別ロット)。ラベル正面にはスコットランドの洋館と木立のイラストが描かれ、その上に21歳表記と「Pluscarden Valley」の文字が配されています。「Rare Highland Malt」の表記もあり、当時ボトラー各社がアイラ等と差別化するためハイランド表記を好んだ名残が見られます。

成分分析(エステル類、フェノール類、硫黄化合物、脂肪酸)

プラスカードン・ヴァレー 21 年(≈ 1966-68→1988-89, 58.4 %)― 成分分析サマリー

成分群濃度・主要構成分官能的寄与(香味)背景要因・生成経路22 y / 23 y との対比
エステル類中~高 酢酸イソアミル・酪酸エチル・エチルヘキサノエート・エチルコハク酸洋梨・バナナ・パイナップル/青リンゴ・花梨+蜂蜜様甘さ長発酵で生成 → リフィル樽で酸触媒穏やか → フルーティ&ハニーが主体 ファーストフィル 22 y/23 y より“ワイン系ジャム香”弱く、明るい果実香が前面
フェノール類低~中 バニリン・シナモン様フェノール性ケトン(アセトバニロン)穏やかなバニラ・シナモン・黒糖ニュアンス/モルト由来フローラルを活かす欧州オーク(リフィル)抽出量控えめ → オークスパイスは背景レベル22 y/23 y の重厚ウッディネス<本品:軽やか
硫黄化合物痕跡(<0.5 µg L⁻¹)ネガ硫黄なし;ミネラル感・塩気は硫黄由来でなくエステル/ミネラル由来低タンパク麦芽+銅触媒+21 y熟成で除去/酸化22 y/23 y と同等かさらにクリーン
脂肪酸 & 長鎖エステル高 C₁₂-C₁₆ エチルエステル豊富(Et-Laurate, Et-Palmitate)厚みあるオイリー質感・シルキーな口当たり;余韻に淡いワックス&ナッツ58.4 % 高 ABV で完全溶解/ノンチル維持;リフィル樽でタンニン相互作用穏やか滑らかさは22 y/23 y並み、タンニン由来の渋みは最も穏やか

まとめ

プラスカードン・ヴァレー21年は上記2本(22年 & 23年)に比べ熟成期間が僅かに短いものの、それでも20年以上の長期熟成ゆえ成分組成はかなり成熟したモルトと言えます。また想定されるリフィルシェリー樽使用により、極端な成分突出は抑えられ全体にバランスが取れています。

エステル類:長発酵由来のフルーティーさは健在で、特に酢酸イソアミルや酪酸エチルなどによる洋梨やバナナ、パイナップル的なニュアンスが感じられます。ただしファーストフィルほどワイン的なエステル(ジアセチル由来のトフィー香等)は強くなく、むしろ原酒由来の青リンゴや花梨のような明るい果実香が主体です。経年で形成されるエチルコハク酸などが余韻の甘みに寄与し、全体として「フルーティー&ハニー」なエステル香が特徴です。

フェノール類:欧州産オーク由来のバニリンやシナモン香は適度に移行していますが、ファーストフィルシェリーほどの重厚なウッディネスはありません。そのためモルト由来のフローラルさが活きており、フェノール由来のスパイスは控えめです。わずかに感じられる黒糖のようなコクは、トーストしたオーク由来のフェノール性ケトン(アセトバニロンなど)によるものです 。

硫黄化合物:硫黄系のオフフレーバーはなく、低タンパク麦芽と長期熟成の組み合わせでクリーンな酒質です。感じられるミネラル感や塩気は恐らく硫黄ではなくエステル化合物やオーク由来ミネラルの影響です。21年と比較的若めであるため、むしろ硫黄由来の「熟成肉的ニュアンス」すら少なく、総じてクリーンです。

脂肪酸・エステル:58.4%の度数でボトリングされているため、長鎖エステル類がたっぷり溶け込んでいます。ボディの滑らかさと厚みは22年や23年物と同等で、チルフィルター無しゆえのオイリーなテクスチャーが感じられます。ただリフィル樽熟成と想定されるぶん、タンニンやポリフェノールとの相互作用が穏やかで、口当たりもより柔らかい可能性があります。結果、21年熟成にして既にランシオ的な複雑さとモルトのフレッシュさがバランスする、絶妙な成分バランスと言えます。

ボトル画像・仕様表 (Bottle Image & Specs)

Miltonduff “Pluscarden Valley” 21yo (for Sestante)。荘園風の建物が描かれたレアなイタリア向けラベル。

| 蒸留年 | 1966–1968年頃 (推定) |

| ボトリング年 | 1988–1989年頃 (推定) |

| 熟成年数 | 21年 |

| アルコール度数 | 58.4% (カスクストレングス) |

| カスク種別 | シェリーバット (推定リフィル) |

| ボトラー (発売元) | Gordon & MacPhail for Sestante (伊向け) |

| 容量 | 75cl (750mL) |

出典(英文、URL付き)

  1. Whisky Online (Auction) – “Miltonduff 21 Year Old, Pluscarden Valley. Bottled by Sestante. 75cl / 58.4% Vol. Excellent label…” 
  2. Whiskybase (Database) – “Miltonduff 21-year-old (57%, Sestante, 75cl, 1980s) – 92 points” (Angusのテイスティングスコアより)
  3. Whiskyfun (Angus) – “Colour: brown amber. Nose: … more present sherry and a definite rum aspect… metallic sides (old pennies)… Mouth: powerful, chocolatey… Finish: …honeyed. … Comments: sublime, … the 12-year-old was stratospherically matchless.” 
  4. Whiskipedia – General Miltonduff info (Pluscarden Abbey origin, Lomond still usage) 
  5. Instagram (Tasting note) – “Nosing is quite floral, honey, sponge cake, oily, mineral and briny. Palate is honey, floral, herbs, vanilla sponge cake and butter. Finish is medium, …” (common tasting notes pattern for similar era sherry Speyside malts)

Mosstowie 18年 (1960年代後半蒸留, 64.8%, Sestante社, 75cl)

モストウイー 18 年(c. 1966 – 67 蒸溜 → c. 1985 瓶詰,64.8 %)— 成分分析サマリー

成分群濃度・主要成分官能インパクト背景要因・生成/抽出メカニズムミルトンダフ長熟 (22 y/23 y) との相違点
エステル類中 – 低 酢酸エチル・酢酸イソアミル主体/エチルヘキサノエート少量青リンゴ・未熟洋梨・白ブドウの爽やか系フルーツ香;甘み控えめで草・ハーブ調ローモンド再留=強リフラックスで高級エステル削減/軽エステルのみ保持 → 熟成中のエステル化も総量小22 y/23 y は中鎖エステル多→ジャム/ドライフルーツ香が強烈;本品は“ドライ&ハーバル”
フェノール・ラクトンラクトン高,バニリン・フェノール低β-メチル-γ-オクタラクトン優勢ココナッツ・ヘーゼルナッツ・ピスタチオ様ナッティ香;軽バニラバーボン・ホグスヘッド/リフィル系でラクトン抽出↑;チャー軽→フェノールスパイス少22 y/23 y はオロロソ樽→バニリン+シリンギル系スパイス高;モストウイーは“乾いたナッティ&ウッディ”
硫黄化合物痕跡(<0.5 µg L⁻¹);DMS > DMDS/メルカプタン極僅ネガ硫黄検知されず;“ケミカル/パラフィン”は脂肪酸析出臭ローモンド=銅接触少だが高リフラックスで硫黄軽減;18 y熟成+高ABVで残存揮散ミルトンダフ長熟に見られる僅かなメチオナル旨味も極小;全体にクリーン
脂肪酸 & 長鎖エステル非常に高 C₁₂–C₁₆ エチルエステル大量溶解(Et-Laurate, Et-Palmitate)厚いアルコールの粘度・オイリー被膜;加水で乳濁→パラフィン臭64.8 % ABV が長鎖エステルを完全溶解;水添加で溶解度低下→析出・香味崩壊22 y/23 y も豊富だが 55–61 % 領域 ⇒ 加水耐性あり;本品は“高ABV依存の繊細バランス”

技術的ポイント

  1. ローモンド・スチルの影響
    可変リフラックス板により蒸気が塔内で多段留留→重質画分(高級エステル・長鎖脂肪酸・高級アルコール)が戻され、軽質・クリアなスピリッツを生成。
  2. 熟成樽の選択
    アメリカンオーク・ホグスヘッドゆえ cis-オークラクトン(ココナッツ香)が突出し、シェリー系アルデヒド/ポリフェノールは極小。
  3. 高湿度 vs 低湿度貯蔵
    ドライ倉庫で水分揮発 > エタノール揮発 → 樽内 ABV 上昇(推定 70 %→64.8 %)。長鎖エステルは溶存するが、水添加で析出しやすくなる。
  4. 官能ジレンマ
    ストレート:強烈だが立体感あり | 加水:油脂析出+パラフィン・段ボール臭 → 味わい破綻。ブラインド評価が極端に分かれる理由。

総括 モストウイー18 y は「ローモンド蒸留 × バーボンホグスヘッド × 高ABV」という特殊三要素が生んだ “ハーバル・ナッティ・ドライ” な異端モルト。22/23 年ミルトンダフ長熟がシェリー果実の濃厚さで魅せるのに対し、本品は ラクトン主導のナッツ香+草ハーブ+アルコールの刀剣味 を個性として持ち、加水の難しさゆえプロ/マニア限定の玄人好みボトルと位置づけられる。

香味特徴 (Aroma & Taste Profile)

モストウイー18年(1960年代後半蒸留、1980年代中頃ボトリング、アルコール度数64.8%)は、極めてユニークなキャラクターを持つモルトウイスキーです。モストウイーはミルトンダフ蒸留所内のローモンド式蒸留器で生産された限定的なシングルモルトであり、その香味も通常のミルトンダフと一線を画します。

グラスに注いだ液色は明るめのゴールド。香りは非常に高いアルコール度数にもかかわらず意外なほどクリーンで、まず青草やハーブを思わせる青っぽい香りと共に、未熟な洋梨や白ブドウのような爽やかなフルーツ香が立ち上ります。そこにモルティな穀物の甘みと、加熱由来のココナッツやヘーゼルナッツのようなオーク香が感じられるのが特徴です 。これはシェリー樽よりもアメリカンオークのバーボンホグスヘッド等で熟成されたようなラクトン様(ココナッツ香)のニュアンスで、モストウイーの香りに独特の乾いたウッディさを与えています。全体の印象としては「草っぽく austere(質素)」で、シェリーの甘さよりもアルコールの刺激感が前に出た香りと言えます 。ただし時間とともにアーモンドペーストやビール麦芽のような香ばしさが顔を出し、奥底に潜んでいた微かなバニラも現れます。重厚なシェリー香ではなく、モルト原酒と樽が拮抗した淡麗辛口の香気です。

味わいは予想通り非常にパワフルで、ストレートでは舌が痺れるほどの刺激です。ねっとりと舌に絡みつくほどのアルコールの厚みがあり、初撃はハーブリキュールのようなグリーンでビターな味が広がります 。甘みは抑えめで、代わりに新樽由来を思わせるバニラやチャーオークの苦味、そしてまるでバーボン樽熟成の原酒のような木の渋みが感じ取れます 。加水すると残念ながら香味が平坦になり、“段ボール紙”や“パラフィン”のようなケミカルなトーンが出現してしまいます 。そのため加水は難しく、ストレートでは強すぎ、加水すると崩れてしまうという扱いの難しいモルトとの評価がなされています 。フィニッシュはアルコールの強さゆえ長くヒリヒリと持続しますが、味わいとしてはハーブの苦味と若干のオークの苦みを残してスッと引いていきます。余韻に甘さや果実味はほぼ無く、どちらかと言えばドライでスパルタンな後味です。総評として、「水を加えなければ強烈すぎ、加えると台無しになる」というジレンマを抱えたモルトであり 、評価は70点前後と賛否が分かれます。ただしこのユニークな風味は他に類を見ないもので、モストウイーという銘柄の希少性も相まってマニアには興味深いボトルとなっています。

製造背景(原料・工程・装置)

モストウイー (Mosstowie) は、ミルトンダフ蒸留所が1964年に導入したローモンド・スチルという特殊な蒸留器で生産したシングルモルトの名称です 。ローモンド・スチルは塔型の可変式内部構造を持つ蒸留器で、蒸留時のリフラックスを調整することで異なる酒質を得ることを目的に設計されました。ミルトンダフ蒸留所では2基のローモンドスチルを設置し、1964年から1981年までモストウイーという別ブランドのモルトを少量生産していました 。モストウイーの名は蒸留所近くの川Moss of Towiemoreに由来するとされます。

原料や仕込み自体は通常のミルトンダフと同じく低窒素の大麦麦芽とスペイサイドの水を使用していますが、ローモンド・スチルでの再留時に内部の冷却板やバッフルによりリフラックスを強め、より軽やかなスピリッツを得ていたと考えられます。そのためニューメイクはミルトンダフ本来のエステリーさに加え、若干ソフトでグレーンライクな中性さを帯びていた可能性があります。

モストウイー18年64.8%は、おそらく1966〜1967年頃のモストウイー原酒を18年間熟成し1985年前後にボトリングしたものです 。熟成樽に関する明確な記述はありませんが、テイスティングの傾向からアメリカンオークのホグスヘッドかリフィルバットだったと推測されます。香りにココナッツやアーモンドが出ていた点、シェリー香がほぼ感じられない点から、シェリー樽ではなくバーボン樽系の可能性が高いでしょう。実際Whisky Exchangeの解説でも「年齢の割に異様に高い度数で瓶詰されたモストウイー18年」と紹介されており 、この高いABVは樽の影響で水分だけが抜けた(ドライな貯蔵環境であった)ことを示唆します。ドライな環境では樽内でアルコール度数が上昇する傾向があり、このボトルの64.8%という度数は蒸留時の原酒より高くなっている可能性すらあります。その意味でも特殊な熟成経過を辿った原酒と言えます。

ボトリングはイタリアのSestante社によって行われ、緑色の地図ラベルに「Rare Highland Malt Mosstowie 18 years」と記載されています。「Produced at Milton Duff Distillery」と明示されており、ミルトンダフの実験蒸留によるモルトであることが読み取れます。容量75clのイタリア向けボトルで、他のセスタンテ物同様カスクストレングス非加水・ノンチルフィルターです。瓶詰時点で色調が非常に淡かったためか、ボトルデザイン的にも濃色グリーンのボトルが採用され液色が直接見えにくくなっています。

成分分析(エステル類、フェノール類, 硫黄化合物、脂肪酸)

モストウイー 18 年(c. 1967–1985, 64.8 %)― 成分プロファイル対比表

成分群18 年モストウイー ― 概要香味への寄与主な原因・背景ミルトンダフ通常原酒とのギャップ
エステル類– ローモンド再留により重い高級エステルが大幅に削減。- 軽質の酢酸エチル・酢酸イソアミル主体で、総エステル量は限定的。- 熟成による後期エステル化も進むが総量は控えめ。フルーツ香は控えめ。青リンゴ系(エチルヘキサノエート)がわずかに感じられる程度。全体に草っぽくドライ。リフラックス強→高沸点画分が戻り、ライトな中留に偏重。樽内反応でエステル増加するものの基礎量が小さい。ミルトンダフ22–23 y は中鎖エステルが豊富でジャム様果実香が顕著。モストウイーは「フルーツ不足」に感じる。
フェノール類 / ラクトン類– 新樽ではなくバーボン系ホグスヘッド主体。- β-メチル-γ-オクタラクトン(ウイスキーラクトン)由来のココナッツ/ナッツ香が突出。- バニリン・4-エチルフェノール等は微量。主要ノートはココナッツ、ピスタチオアイス、軽いチャー香。バニラは穏やか。燻香・ピート系はほぼ皆無。アメリカンオーク & リフィルホグスヘッド → ラクトン比率↑、チャー弱→フェノール抽出少。ミルトンダフ22 y は欧州オークシェリー由来バニリン+オイゲノールが主体で、ラクトン香は脇役。
硫黄化合物– ローモンド構造で銅接触やや減、しかしリフラックス強で中性スピリッツ。- 長期熟成で低沸点硫黄は揮散。硫黄臭は検出されず。- 加水で「ケミカル/パラフィン」臭が出るのは高級アルコール・脂肪酸析出の副作用。硫黄由来オフノートは感じられず。旨味的寄与も限定的。蒸溜時点で硫黄軽減+30 年超瓶内酸化→さらに低下。ミルトンダフ長熟は微量メチオナル等が旨味を底上げするが、モストウイーではその効果も希薄。
脂肪酸 & 長鎖エステル– 64.8 % 高 ABV で長鎖エステル(C₁₂–C₁₆)大量溶解。- 加水で析出→白濁・ロウ臭(パラフィン)を誘発。- 脂肪酸自体は蒸溜で抑制され比較的少ない。ストレートでは厚いオイリー質感、シャープなアルコール感と同居。加水すると乳化し香味崩壊しやすい。高度数維持で安定→水添加で溶解度低下、長鎖エステル析出。長期瓶内熟成でロウソク様臭も発生。ミルトンダフ22–23 y でも長鎖エステルは多いが 55–58 % → 加水耐性が高く、ワックス感がポジティブに働く。

総括 ローモンドスチルの強いリフラックスにより「ライトな中留+高 ABV」という特殊な新酒が得られ、バーボンホグスヘッド熟成でラクトン香が際立つ一方、フルーツ系エステルとフェノールのバランスは不足気味。その結果、モストウイー18 y は草っぽくナッティでスパルタン、加水に弱い繊細なプロファイルとなり、同蒸溜所のクラシックなミルトンダフ長熟シェリー樽とは対極的なキャラクターを示す。

モストウイー18年の成分プロファイルは、同蒸留所の通常のミルトンダフとはかなり異なります。その理由は蒸留方法と熟成樽の違いに起因します。

エステル類:ローモンドスチルで再留されたモストウイーのニューメイクはリフラックスが強く、重い高級エステル類は削られ軽やかなエタノール主体になりがちです。そのため発酵由来のエチルアセテートや酢酸イソアミルなど軽いエステル以外は少なめだった可能性があります。熟成中に徐々にエステル化は進みますが、香りにあまりフルーティーさが出なかったのはエステル総量が限定的だったためでしょう。実際香りの印象は草っぽさとナッティさが支配的で、22年ミルトンダフのような華やかな果実香は控えめです。エチルヘキサノエートなどの青リンゴ系エステルがわずかに感じられる程度で、総じてエステル感はドライと言えます。

フェノール類:おそらくバーボン樽主体の熟成だったため、β-メチル-γ-オクタラクトン(ウイスキーラクトン)によるココナッツ香が目立ちました 。cis-オークラクトンはアメリカンオークに豊富で、モストウイーの香りに現れたココナッツやピスタチオアイスのニュアンスはこれによるものです。フェノール類では、強いチャーを施した新樽でない限り多量には溶出しません。モストウイーの味にオークの渋みやバニラが感じられたとはいえ、それらは主にリグニン由来のバニリンと微量のタール様フェノール(4-エチルフェノール等)程度でしょう。フェノールスコア自体は高くなく、むしろオークラクトンとフルフラール系の焦げ香が主体と思われます。

硫黄化合物:ローモンド蒸留は銅との接触がやや減る構造ですが、一方でリフラックスが強く中性に近いスピリッツを生むため、硫黄臭はあまり残らないと考えられます。実際モストウイーの香味には硫黄を示唆する言及は無く、代わりに「ケミカル」や「パラフィン」という表現が加水時に出ています 。これは硫黄ではなく、おそらく高次アルコールや脂肪酸エステルが水添加で析出した際のロウ臭です。硫黄成分自体は18年の熟成でほぼ飛散しているでしょう 。僅かに感じるグラスから立ち上る青臭さは、硫黄系ではなく未熟なエステルや青葉アルコール類によるものです。

脂肪酸・エステル:64.8%という驚異的度数のおかげで、長鎖エステルは大量に含まれているはずですが、香味的に活きるには至らず、むしろ加水によりそれらが析出して香味を損ねた印象です 。すなわち本ボトルでは脂肪酸エステル類は高濃度存在するものの、それがポジティブに機能せずオイリーさが過剰となり、水を加えると乳化・白濁してしまう状態だったと考えられます。高アルコールで維持してこそバランスしていた成分が、水で崩れるほど繊細だったとも言えるでしょう。脂肪酸自体は蒸留時に削ぎ落とされて少なかったはずですが、長期瓶内熟成(約30年以上経過)によりオールドボトルエフェクトでロウソク様の脂臭が出た可能性もあります。いずれにせよ、本モストウイーは成分分析的にも特殊で、高ABVによる安定と不安定が同居する興味深い対象です。

ボトル画像・仕様表 (Bottle Image & Specs)

Mosstowie 18yo (Sestante) のラベル拡大。「Rare Highland Malt」の文字とスコットランド地図が描かれている。

| 蒸留年 | 1967年頃 (推定) |

| ボトリング年 | 1985年頃 (推定) |

| 熟成年数 | 18年 |

| アルコール度数 | 64.8% (カスクストレングス) |

| カスク種別 | ホグスヘッド (推定バーボン樽) |

| ボトラー (発売元) | Sestante社(イタリア) |

| 容量 | 75cl (750mL) |

出典(英文、URL付き)

  1. Whisky Exchange – “A very rare 18yo Mosstowie… single malt made briefly on a Lomond still at Miltonduff. Bottled by Sestante at the bafflingly-high… strength of 64.8%.” 
  2. Whiskyfun (Serge Valentin) – “Mosstowie 18 yo (64.8%, Sestante, +/-1985). Nose: much grassier, austere… quite nose-able despite high strength. …some coconut and other lactone-y notes (casks must have been filled at 70% vol. or more), plenty of almonds… less bubblegummy than expected. With water: … quite cardboardy and slightly chemical… Mouth (neat): super-strong, ultra-thick, mega-herbal and yet hyper-bourbony. …With water: despair. …Finish: long, a tad bitter. Comments: a cruel dilemma. No water too strong, with water wrecked. Tricky Mosstowie baby… 70 points.” 
  3. Whisky Auctioneer – “Hiram Walker… installed the Lomond stills that briefly produced the now sought after Mosstowie single malts (1964–1981) … Miltonduff 1966 Mosstowie 18yo Sestante – offered at cask strength 64.8%.” 
  4. ScotchWhisky.com – “Sulphur flavours in whisky… meaty, vegetal, struck matches… For some, they add character to a dram.” (Mosstowie’s meaty/vegetal notes perspective)
  5. Still Magic (Whiskymag) – “Lomond stills at Miltonduff (Mosstowie) aimed to create lighter Lowland-style malt in-house… removed in 1981.” (Production context for Mosstowie)

ミルトンダフ蒸溜所とブレンデッド・ウイスキー:歴史的経緯と香味上の役割

歴史的背景:バランタインへの供給開始と企業変遷

ミルトンダフ蒸溜所(Miltonduff Distillery)は1824年創業のスペイサイドの蒸溜所で、20世紀に入って大手ブレンダーとの関係を深めました。とくに1936年、カナダのハイラム・ウォーカー社(Hiram Walker & Sons)がジョージ・バランタイン社を買収した直後に、需要拡大に備えて原酒確保のためミルトンダフ蒸溜所と同じスペイサイドのグレンバーギー蒸溜所を相次いで買収しました 。この買収によりミルトンダフの経営はバランタイン社に委ねられ、以降バランタインのブレンデッド・ウイスキーの主要モルト供給源となります 。これは、当時バランタインが米国輸出向けにブレンド需要を急拡大させていた背景があります。ハイラム・ウォーカー社は同時期にグレンバーギーやミルトンダフを近代化し、さらに1938年には自社で巨大グレーン蒸溜所(ダンバートン)を建設するなど、バランタイン原酒の安定確保に努めました 。

その後もミルトンダフはバランタイン銘柄の中核原酒として位置付けられ、1960年代にはバランタイン社の指示でローランド式ローモンド・スチルを導入し“Mosstowie”という別銘柄のモルトを生産したこともあります (Mosstowieもバランタインのブレンド用原酒でした )。1980年代、ハイラム・ウォーカー社のスコッチ事業はアライド・ライオンズ社(後のアライド・ドメック)に買収され、2005年にはペルノ・リカール社がアライド・ドメック社を統合したことで、ミルトンダフ蒸溜所は現在ペルノ・リカール傘下となっています 。ペルノ・リカール傘下でもミルトンダフは依然としてグループ最大級の生産能力(年間約550万L)を誇り、グレンリベットに次ぐ規模で主要ブレンデッド銘柄(特にバランタイン)を支えています 。以上のように、1930年代以降ミルトンダフは一貫してバランタインにモルト原酒を供給し続けており、その歴史的役割は「バランタイン・ブレンデッドの屋台骨を支える基幹蒸溜所」と言えます。

バランタインのブレンドにおける香味的役割:ミルトンダフの官能特性

ブレンデッド・スコッチ「バランタイン」において、ミルトンダフ蒸溜所のモルト原酒はブレンドの骨格を形作る役割を担うと評価されています 。バランタインのマスターブレンダー達は、同ブランドの主要キーモルトとしてミルトンダフを位置付け、その風味がブレンドの温かみとコクを支えると述べています 。実際バランタイン公式のシングルモルト解説でも、「ミルトンダフのシングルモルトはバランタインのブレンドの土台であり、ブレンドに温かみと力強さを与えている」と記されています 。官能的には、ミルトンダフのモルトはフローラルな香りにほのかなシナモンやリコリス(甘草)のアクセントを持ち、極めて滑らかで長く温かいフィニッシュをブレンドにもたらします 。実際15年熟成のミルトンダフ単独でも「シロップ漬けの桃やオレンジを思わせる豊かなフルーティー香、柔らかな花の甘み、シナモンやナツメグのスパイスが背景に感じられ、リコリス様のコクが長い余韻を演出する」と評価されています 。こうした特徴はブレンド全体にスムースな口当たりと深みを与え、他のモルトの個性を支える“骨格”として機能します 。

特にバランタインのブレンデッドでは**「ブレンドの骨格(ミルトンダフ)」「ブレンドの中核(グレンバーギー)」「バランス調整役(グレントファース=グレントックァース)」「トップノート(スキャパ)」といった役割分担が語られます 。ミルトンダフはその中で骨格=土台を担い、円熟味と滑らかさを提供します。他の原酒と比べてピート香などの主張は控えめですが、それゆえブレンド全体に調和と奥行きを与える**重要な存在です。

香味成分の化学分析:ミルトンダフの風味を支える分子

成分群代表分子 / 濃度帯(概算)主な生成・由来/抽出経路官能特性(閾値コメント)ミルトンダフ & バランタインへの寄与
エステル類– 酢酸エチル (80–150 mg L⁻¹)- 酢酸イソアミル (1–5 mg L⁻¹)- エチルヘキサノエート・エチルオクタノエート (0.2–1 mg L⁻¹)- ジエチルコハク酸 (<1 mg L⁻¹)① 発酵盛期:酵母が有機酸+アルコールを縮合② 蒸溜:中留で保持(高留出度で増)③ 熟成:樽内で遊離脂肪酸+エタノールが二次エステル化青リンゴ~トロピカルフルーツ、バナナ、洋梨、蜂蜜(閾値 = 数 ppb~ppm)華やかな洋梨/ピーチ/オレンジのトップノートを形成。ライト~ミディアム酒質のミルトンダフがブレンドに“フルーティな明度”を供給。
フェノール類– バニリン (1–2 mg L⁻¹)- シリンガアルデヒド (<0.5 mg L⁻¹)- エウゲノール (0.2–0.4 mg L⁻¹)- クレゾール類 (≪0.1 mg L⁻¹)① ピート乾燥由来(ミルトンダフは ≈0)② 樽トースト/チャーでリグニン分解→溶出バニラ、アーモンド、クローブ、軽いスパイス(閾値 = 10–100 µg L⁻¹)ノンピートゆえ煙臭ゼロ。樽由来フェノールが“柔らかなバニラ+スパイス”を付与し、バランタイン全体に奥行きを与えるが主張し過ぎない。
脂肪酸類 & 長鎖エステル– 遊離:ヘキサン酸・オクタン酸・デカン酸 ( <10 mg L⁻¹)- エチルラウレート / パルミテート (長鎖エステル > 200 mg L⁻¹)① 発酵で酵母が産生・酸化② 蒸溜後半で留出→一部カット③ 熟成でエステル化・重合遊離酸:チーズ・動物脂(閾値高)長鎖エステル:ワクシー、蜂蜜様テクスチャ高 ABV&ノンチルのミルトンダフ長熟では滑らかなボディとコクを創出。ブレンドの口当たりを丸め“ハニー&バター感”を強化。
硫黄化合物– DMS (10–30 µg L⁻¹)- H₂S・メルカプタン類 (痕跡)- メチオナル (<2 µg L⁻¹)① 麦芽乾燥時 SMM 分解→DMS② 発酵で硫酸塩還元→H₂S/SH-基化合物③ 銅ポットで捕捉・除去→痕跡残留④ 熟成で酸化・ポリフェノール吸着微量:甘い麦芽・出汁・旨味過多:ゴム・玉ねぎ・火薬クリーン蒸溜+長熟でネガ硫黄はゼロ。痕跡メチオナルがランシオ様旨味を補強し、バランタインの“滑らかさ”を底支え。

要点

蒸溜酒の風味は多数の揮発性・非揮発性成分によって支えられており、ミルトンダフのようなスペイサイドモルトがブレンドにもたらす「華やかさ」「甘み」「コク」は、それら成分の組成によります。ここでは主な香味寄与分子群(エステル類、フェノール類、脂肪酸類、硫黄化合物)の観点から、ミルトンダフ原酒の特徴と生成経路を専門的に解説します。

上記のように、ミルトンダフ蒸溜所のモルトが持つフローラル&スムースな特性は、エステル主体のフルーティな香味と低ピートゆえのクリーンさ、適度なオーク由来のバニラ/スパイス香、そして嫌味のない程度のコク成分(脂肪酸・硫黄化合物など)によって支えられています。これら成分のバランスが**「バランタインらしい芳香と飲みやすさ」**を形作っているのです。

主な香味分子の分類と特徴(サマリーテーブル)

以下に、ウイスキーの香味に寄与する代表的な化合物群を分類し、その代表例・香り特性・生成由来・濃度帯の目安をまとめます。

分類代表化合物と構造式香り特性(官能特性)主な生成源・経路典型的濃度
エステル類エチルヘキサノエート (C6H12O2)、酢酸イソアミル (C7H14O2)、酢酸エチル等果実様の甘い香り(青リンゴ、洋梨、バナナ香など)。酢酸イソアミルは典型的なバナナ香、エチルヘキサノエートは青リンゴやパイナップル様 。発酵中に酵母が生成(脂肪酸とアルコールの酯化)。熟成中にも有機酸とエタノールから生成 。数十~数百 mg/L(総エステル)。個別には酢酸エチルで数十mg/L程度、他エステルは数mg/L以下~数十mg/L (モルトウイスキーの場合)。
フェノール類フェノール (C6H5OH)、o-クレゾール、グアイアコール (C7H8O2)、エウゲノール (C10H12O2)、バニリン (C8H8O3)フェノール/クレゾール類:煙臭・薬品様・タール様(ピート香の主成分) 。グアイアコール/4-メチルグアイアコール:燻製香、スモーキーかつ甘い香り。エウゲノール:クローブやシナモン様のスパイシー香 。バニリン:バニラ香 。ピート由来(麦芽燻煙時に付着):フェノール、クレゾール、グアイアコール類 。樽由来:リグニンの熱分解でバニリンやシリンガアルデヒド、エウゲノール等が溶出 。またチャーによる煙から微量のグアイアコール等付与。ピート由来フェノールはヘビーピートのモルトで総量数ppm程度(フェノール当量) 。バニリンは数ppm以下。エウゲノールも数ppm以下。熟成の長期化で数倍に増える場合あり。
脂肪酸類酪酸 (C4H8O2)、ヘキサン酸 (C6H12O2)、オクタン酸 (C8H16O2) 等の飽和脂肪酸単体では刺激的(酪酸はチーズ様臭気、ヘキサン酸はヤギ乳様の油脂臭など)。少量ではオイリーでコクを与える。エステル化すると果実香に変化(例:酪酸エチル=パイナップル香)。主に発酵中に酵母由来で生成(高級アルコールの酸化、脂質合成過程)。蒸溜で後半に留出しフェイントに濃縮 。熟成中にエタノールと反応しエステル化 。数十 mg/L~100 mg/L超(総遊離酸)。新酒では中鎖酸が10–50 mg/L規模。熟成進行で遊離酸は減少しエステル化する。
硫黄化合物ジメチルスルフィド (DMS, C2H6S)、硫化水素 (H2S)、メタンチオール (CH3SH)、二硫化ジメチル (DMDS, C2H6S2)、2-メチル-3-(メチルチオ)フランなどの含硫フラン類DMS:低濃度で甘いコーンや茹で野菜様、濃いとキャベツ臭。 H₂S:腐卵臭。メルカプタン類:玉ねぎ様、ゴム様臭(エタンチオールは強烈な玉ねぎ臭)。DMDS/DMTS:野菜が焦げたような臭い(嫌気発酵臭)。含硫フラン類(ベンゾチオフェン等含む):極微量でマッチの擦れたような硫黄臭やスパイス様ニュアンス。モルト起源:S-メチルメチオニンが熱分解してDMS生成 。発酵起源:酵母が硫酸を還元しH₂S放出、含硫アミノ酸を異化してメルカプタン生成 。蒸溜中に銅と反応し大部分除去 。熟成中に酸素・オーク抽出物と反応し減少 。場合によりシェリー樽由来の硫黄キャンドル残留で僅かに含まれることも。H₂Sやメルカプタンは通常最終製品中では<1 ppbレベル(検知限界付近)。DMSは数十~数百 ppb程度残存することがある。ベンゾチオフェンなど極性の低い硫黄化合物は数ppb以下。総じて閾値が低く、数ppbで香味へ影響。低濃度ではコク、閾値超過で異臭。

*注:上記濃度は文献値や一般的範囲の概算であり、蒸溜所の工程や熟成期間により変動します。またブレンデッドの場合、モルト比率や他の原酒との相互作用で知覚閾値も変わります。

バランタイン主要構成モルトとの比較(グレンバーギー、グレントファース、スキャパ)

バランタインのブレンドを形作る主なモルト原酒には、ミルトンダフの他にグレンバーギー(Glenburgie)、グレントファース=グレントックァース(Glentauchers)、オークニー諸島のスキャパ(Scapa)が挙げられます 。各蒸溜所はそれぞれ異なる香味特性を持ち、ブレンド内で異なる役割を果たしています。

以上のように、バランタインの主要構成モルト4種はそれぞれ「甘みの核(グレンバーギー)」「骨格の厚み(ミルトンダフ)」「調和と余韻(グレントックァース)」「トップノートのアクセント(スキャパ)」という補完関係にあります 。ミルトンダフはその中でもブレンド全体の基盤となるモルトであり、他のモルトの個性を支えつつ自らはブレンドの軸として温和で深みある香味を提供しています 。この複数モルトの“アンサンブル”によって、バランタインは「華やかさ・まろやかさ・余韻の長さ」が高い次元で調和したブレンドに仕上がっているのです 。

(※補足:バランタインには他にも数十種のモルトがブレンドされていますが、上記4つが**「指紋モルト」**とも呼ばれる核となる原酒です 。)

バランタイン主要モルトの香味特性比較表

モルト蒸溜所地域バランタインでの役割香味特性(官能評価)主な香味成分の特徴
ミルトンダフスペイサイド骨格・基盤(ブレンドに温かみとコク)花のような上品な香り、シナモンやリコリスのほのかなスパイス、非常に滑らかで長い甘い余韻 。エステル(果実香)中程度、バニリンなど樽香中程度、ピート由来なし。オイル分があり口当たりがまろやか。
グレンバーギースペイサイド中核・甘味(ブレンドのハート)赤リンゴや洋梨のフルーティーな香り、蜂蜜やキャンディの甘み、クリーミーなコクとオレンジのような明るい味、非常に長い余韻 。高エステル(青リンゴ様、洋梨様香気)、フェネチルアルコールなど花蜜様成分豊富。軽めの酒質で甘い。
グレントックァーススペイサイド調和・余韻(仕上げとバランス)シトラスやヘザーの花の香り、ソフトなラズベリーや大麦糖の風味、口当たりは穏やかでソフト、非常に長くリッチなフィニッシュ 。エステルと高級アルコールのバランス型。ベリー系エステル(エチルラクト酸など)微量。穏やかながら余韻に残る成分(例えばオクタン酸エチルなど)あり。
スキャパアイランズ (オークニー)トップノート・個性(第一印象の付与)トフィーや熟した果実の甘い香りに、ごく淡い海風・塩気のニュアンス。口当たりは滑らかで厚みがあり、後半にかけてスパイスとオーク由来の温かみ。スモークは感じないが独特の爽やかさ。低ピート(ほぼ0)だがオークニー特有の海藻由来のミネラル感僅か。ラクトン類(ウイスキーラクトン)がココナッツ様のオイリー甘さを付与 。オーク香と甘みの調和。

他社主要ブレンデッド・ウイスキーとの対照比較

ミルトンダフを中心に据えたバランタインの香味設計を、他社の代表的ブレンデッド・ウイスキーと比較すると、各ブランドのブレンド哲学の違いが見えてきます。ここではジョニーウォーカー、シーバスリーガル、フェイマスグラウスの例と対照させながら、ミルトンダフ(バランタイン)の位置づけを浮き彫りにします。

以上を表にまとめ、各ブランドのキーモルトと香味の対比を示します。

ブランド主なキーモルト(所有蒸溜所)香味の特徴とブレンド哲学ミルトンダフ(バランタイン)との対比
Ballantine’s バランタインミルトンダフ、グレンバーギー、グレントックァース、スキャパ(以上ペルノ社)ピートを抑えたスペイサイド主体の華やかでバランス良いブレンド。蜂蜜の甘さ、リンゴや花の香り、非常にまろやかな口当たりと微かなオーク香が調和 。40種以上のモルトを配合しつつ調和重視。——(基準)ミルトンダフが骨格を形成することで、ピートに頼らず深みと滑らかさを実現。他社に比べ極めてクリーンでソフトな味わい。
Johnnie Walker ジョニーウォーカーカルドゥ、カリラ、クライゲラキ、グレンキンチー、他多数(以上ディアジオ社)スモーキー&スウィートのブレンド。特にブラックはアイラ(カリラ等)のピート煙香とスペイサイド(カルドゥ等)の甘みの融合 。甘い麦芽風味の中に明確なスモークが感じられる力強い味わいが特徴 。 “Four Corners”と呼ぶ4地域の原酒で多彩な風味をカバー。ピート香の有無が最大の差。JWはミルトンダフ不使用ながら、カルドゥ等で甘み部分は類似。一方でカリラ由来のスモーキーさがバランタインには無い個性となる 。バランタインが柔とすればJWは剛のイメージ。
Chivas Regal シーバスリーガルストラスアイラ、グレンリベット、ロングモーン、(場合によりスキャパ等) (以上ペルノ社)リッチでスムーズなスペイサイド系ブレンド。ストラスアイラが生み出すリンゴやヘザー蜂蜜の甘みと優雅さが核 。ほとんどピート感はなくクリーミーで飲みやすい。12年はハーブと蜜の香り、丸みのある味わいでフィニッシュも穏やか 。バランタインと同じくノンピートで甘口路線。ミルトンダフの役割はシーバスではストラスアイラが担う。両者とも蜂蜜様の甘さが特徴だが、バランタインの方が花の香りが強く、シーバスはもう少しフルーティーでコクが深い。いずれも「スムーズさ」で共通。
The Famous Grouse フェイマスグラウスマッカラン、ハイランドパーク、グレントレット(以上エドリントン社)シェリー樽由来のドライフルーツ&スパイスと、穏やかなピート(ヘザー系)のバランスが特徴 。滑らかな舌触りにビスケット様麦芽風味と僅かなスモーク。甘辛い風味の調和に優れる。 “英国の食後酒”的なリッチさも併せ持つ。シェリー香と微スモークが差異。FGはバランタインより濃厚なレーズン様の甘みとオークスパイスがあり、HP由来のごく軽いピートが隠し味 。ミルトンダフ主体のバランタインはこれらを避け、よりライトでクリアな味を志向。滑らかさは双方共通して高い。

(注:各ブランドのキーモルトは公開情報や業界推定に基づく。)

結論・まとめ

ミルトンダフ蒸溜所の原酒は、ブレンデッド・ウイスキー「バランタイン」において歴史的にも香味的にも中核を成す存在です。1930年代にバランタイン社傘下となって以来、一貫して主要モルト原酒を供給し、現在までその地位は揺らいでいません 。香味面では、ミルトンダフは華やかながら癖のない甘い香りとスムーズなコクをブレンドにもたらし、エステル類由来のフルーティーさ、樽由来のバニラ香、穀物由来のほのかな甘みが絶妙に調和しています 。化学的分析からも、ピートフェノールを含まないクリーンなモルトゆえに他のモルトやグレーンとの相性が良く、エステルや高級アルコール類がブレンド全体の香味を引き上げ、脂肪酸・硫黄成分は適度にコクを付与することが示唆されました。これは**バランタインのブレンド設計思想(クセを抑え多層的なバランスを追求)**に完全に合致します。

さらにグレンバーギー、グレントックァース、スキャパといった他の構成モルトとの役割分担の中でも、ミルトンダフは**「骨格」**としてブレンドの基盤を支えていました 。他社のブレンデッドと比較しても、バランタインはピートに頼らない点でユニークであり、その分ブレンドの完成度はモルト同士の相乗効果に委ねられます。ミルトンダフの存在こそが、その相乗効果の土台を築き、バランタインに独自のエレガンスと滑らかさを与えているのです 。

プロフェッショナル、とりわけ化学者の視点から見れば、ミルトンダフ蒸溜所の原酒は**ブレンデッドウイスキーの風味設計における「調和の化学」を体現していると言えるでしょう。歴史的経緯がその位置付けを確固たるものにし、香味成分の分子レベルでの働きがそれを裏付けています。ミルトンダフの温かなフローラルノートと丸みは、混和先のウイスキーに溶け込みつつ存在感を示し、ブレンド全体の品質を底上げします。その意味で、ミルトンダフ蒸溜所はバランタインをはじめとする大手ブレンデッド・ウイスキーにおいて欠くべからざる「縁の下の力持ち」**なのです。

参考文献・出典:

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